第14話:猿とギャンブル
隣に女体が着水。
「本当の目的は何でしょうか?」
メイドは吐息混じりに世間話のような口調で言った。
「鉱石があなたにとって価値のあるものであることは分かりました。 けれど交渉するのなら既知であるフェミニーナ様を介さず、わざわざシスネ様に話を持ち掛ける理由が分かりかねます」
「俺は勇者にはなるつもりはない」
答えにならない俺の返事にメイドは「はい?」と言って眉をしかめた。
「だが人を救うことは気分がいい」
確かにメイドの言う通りフェミニーナに話を通す方が労力は結果的に少ないかもしれない。
縁があった。
勢いで働いてみて、たまたまシスネと話す機会があっただけでメイドを納得させる特別な理由なんて存在しない。
「シスネの病気を治せるかもしれない」
しいていうならシスネ・サンスベリアは運が良かった。
「詳しく聞かせていただけますか?」
メイドに俺の楽しい計画を説明した。
「正直言って理解できませんでした」
「そうか」
「しかしあなたには特別な力がある。 私はこの目で見て、そして今も体験しています。 もしも少しでも可能性があるのなら私は全てを賭けてコインを弾きましょう」
この世界においてコインを弾くことは昔からあるギャンブルだ。
そしてそれに全てを賭けるという意味は
「後ろを向け」
「はい」
自らの全てを捧げるということを指す。
俺はメイドのはちきれそうに滑らかに広がった臀部を鷲掴みにして、猿になった。
「ずいぶんと長湯でしたね?」
風呂から出てロビーへ行くとシュランゲが口だけの笑みを浮かべて言った。
「ああ、思ったより疲れていたみたいだ」
シュランゲに言い訳する必要もないだろう。 先に戻ってきていたメイドに視線を向けると彼女は平然とした様子でシスネの後ろに控えていた。
「温泉はどうでしたかシスネ嬢?」
「素晴らしかったです」
「満足してもらえたようで何よりです」
食事を取って宿泊するまでが本来の流れだが、そこまで長居することは許されていない。
「では本日はありがとうございました。 鉱石の件、ご検討お願いします」
フェミニーナと相談するのか、それともサンスベリア家当主に直接おねだりするのか。 どちらにせよこれが上手くいけばダンジョン的には夢が広がるので楽しみだ。
※※※
「どうでしたかお嬢様?」
「なんだか夢を見ていたみたい。 興奮してしまってまだ眠れそうにないわ」
お嬢様はいたくダンジョンを、温泉を気に入られたようだ。
それは良いことだ。 ラビリス様の話が真実になればそこはいずれお嬢様の住む世界になるのだから。
「また行きたいわ。 でもこんな話、お父様が許してくださるかしら」
おそらくご当主様は許可されるだろう。
むしろ普段言わないお嬢様の我が儘に喜ぶかもしれない。
「大丈夫です」
それよりも問題はフルダイブで病気が治るのかどうか。
実際は治るわけではなく、魂だけを人形に移して生活するという話だからこれは倫理観の問題になるだろう。
偽りの体、ダンジョンという世界に縛られた生活。 それが許せるかどうか。
しかしそんな些細なことをご当主様が気にされることはないだろう。
なぜならもう万能薬という宝探しを続けられるほど、お嬢様に残された時間は長くはないかもしれないのだから。
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