第13話:温泉街と裸
「どうして下働きなんてしてますの?」
「この紅葉はどんな魔法を使ったら造れるんでしょう?」
「お名前教えてくださる?」
声を掛けられ「素晴らしい仕事ですわ!」と褒められた。 そして流れるような早さでテーブルが設置され、話がしたいからと誘われ俺はシスネから質問攻めにされている。
本当に病気なのかと疑うほど元気に見えた。
しかしそんな疑問は今は置いておいて、信頼を得るチャンスだ。
「私はラビリス・キックルと申します。 これはダンジョンマスターの能力です」
そしてダンジョンについて大まかに説明する。
信頼を得るためなら秘密を明かすことも厭わない。 そもそもダンジョンについては絶対に隠したいわけでもないし。
「ラビリス様は能力持ちなのですね!」
能力持ちとは誰でも努力次第で習得できる魔法とは違って、会得方法が確立されていない特別な魔法のことだ。
生まれながら持っている場合もあれば、後天的に習得する場合もある。
「はい、いつの間にか使えるようになって驚きましたよ」
「そうなんですね、とっても羨ましいですわ。 そ! れ! で! ダンジョンの町のことについてもっと教えてくださいませ!」
「はい、もちろんです」
興味深々のシスネに俺は現在の状況から、計画していることーー住人を増やして本格的な町にしたいことや、フルダイブを使って仮想の姿になれるーーをたっぷり話してやった。
「ただ魔力が大量に必要ですから、実際に出来るようになるまでどれくらいかかるか。 五年、いや十年」
「それでは困りましたね……何か解決できる方法はないのでしょうか」
「一つだけ宛があります」俺は微笑んでシスネに契約を持ちかけた。
「サンスベリア領で採れる鉱石をお譲りいただきたい。 ただし対価は金銭ではなくダンジョンへの居住権なんてどうでしょうか?」
「ご冗談を。 私はサンスベリア家の娘ですから考える余地もございません」
「そうですか……では試しに一度遊びに来てみませんか?」
俺が渡せるものは町の居住権、または自由に行き来できる権利。
シスネは代わりに例の鉱石を俺に流す。
そうすれば全てが丸く収まる。
シスネは仮想の体で生きることができて、俺は自由に魔力を使ってダンジョンを充実させることができるだろう。
(さあどんな選択をするかな)
シスネに対しての情なんかない。
「ただどうせならみんなが楽しい方がいい」
「何の話ですの?」
「なんでもありません。 行きましょう」
庭に現れた扉を開いて、俺はシスネをダンジョンへ招き入れた。
「これは湯気?」
温泉街をシスネと歩く。
人気のない街に恐る恐るといった様子の彼女だったが、目新しいものがあるとすぐに興味津々にあれはなんだと騒ぎ始めた。
「はい、湯の川です」
「湯の川! この世にはそんなものが!」
町は川で二つに分かれており、橋で行き来できる。 それぞれに店が並ぶが、今はまだ灯りは点いていない。
しかし一件だけ明かりが付いた宿がある。
迎えてくれるのは浴衣姿の三人だ。
「らっしゃいませ!」
「ませ!」
「若様、サンスベリア・シスネ様ようこそおいでくださいました」
三人の勉強の成果を確認しつつ、ここでシスネをもてなして崩落する。
連れ立って中へ入り、カーテシーするメイドにシスネの世話を頼む。
「メイドよろしく」
「かしこまりました、ラビリス様」
いつものメイド服のシュランゲが完全に外向けの対応でむず痒い。
それにシスネの後ろで静かに控えるお付きのメイドが何を考えているのか予想できない。
(なるようにしかならん。 せっかくだから仕事の疲れを癒そう)
俺はファラとラーシャに手を引かれつつ、軽い足取りで風呂へ向かうのだった。
「ああ、きもち~」
湯に浸かると思わず声が出た。
三人は色々と準備があるようで、もちろん俺一人だ。
「なんだかんだダンジョンばっかだなあ」
記憶が甦ってからの自身の行動を思い浮かべてみると、結局どれもダンジョンが絡んでしまっている。
ダンジョンは趣味程度にしようと思っていたのに。
「まあ楽しければ別にいいか」
前世が退屈と感じた原因はダンジョンが生きる目的だったからかもしれない。
そうではなくダンジョンはより人生を楽しむための手段しかないと考えればいいだけだ。
「失礼いたします」
ぼんやりしているとガラリと扉が開いて女性の声が聞こえてきた。
シュランゲの声ではない。 もちろん三人の誰でも。
(じゃあ誰だ……?)
湯気で薄くなっていたシルエットが段々と近づいてきて、姿を現した人物はシスネのお付きのメイドだった。
「ご一緒してもよろしいでしょうか?」
彼女は一糸纏わぬ姿で妖艶に微笑んだ。
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