第15話:王都からのSOS
職場体験を終えてしばらく、サンスベリア家当主の許可が出た。
「ごきげんよう」
暇つぶしがてら温泉宿に行くとロビーのソファーで浴衣姿のシスネがいた。
ここ最近、俺が来ると大体いるんだがもしかして毎日来ているんだろうか。
「こんにちは。 楽しんでもらえているようで何よりです」
後日、もう一度サンスベリアの屋敷に行ってシスネにダンジョンマスターが使う鍵の魔道具を渡した。 その鍵を使えばどこからでもダンジョンへ入ることができる。
「そんなにかしこまらないでくださいな。 私とあなたの仲でしょう?」
「ありがとうございます」
獣人の三人は楽しくやれていそうだ。
特にリオは俺の従者になるたシュラに使用人としての教育を受けているらしい。
時々、激しい組手をしているがあれは従者に必要な技能なんだろうか疑問だ。
そんな感じで平和な日々が続いていた。
続けば慣れて退屈に思える時もあるし、相変わらず俺の王都へ行きたい気持ちはあるが、それなりに充実した生活だと思う。
しかしある日、シュラの言葉で日常は崩壊した。
「王都で勇者召喚が行われたそうです」
勇者召喚とは異世界から人間を連れてくる非道な術である。
滅亡の危機に瀕した世界を召喚された勇者が救った、なんて昔話は誰しも一度は聞いたことがある有名な話。 しかしそれはあくまでファンタジーであると思っていた。
「あの話は脚色はされてますが、真実も含まれてますよ。 世界が滅亡とか勇者とか」
「そうか。 特に興味もないな」
「意外ですね? 絶対楽しそう! 会いに行く! って言いだすかと思いましたが」
確かに興味はある。
興味がないではなく正しくは関わりたくない。 なぜなら前世において俺はダンジョンマスター。 ダンジョンマスターにとって勇者は天敵なのだ。
今世で無条件に敵対するようなことは起こらないと頭では理解していても、どうしても苦手意識が出てしまう。
「それでその勇者がどうした?」
「いえ実はその勇者の関係者となった私の知り合いから手紙が届きまして。 勇者との関わり方が分からず困っている。 助けて欲しい、と」
勇者と関われるということはその知り合いは結構な偉いさんなのでは? 前々から感じていたこのメイドは何者なのかという疑問が沸々と湧いてくる。
ともかくこんな話をするということはシュラは知り合いを助けに行きたいんだろう。 シュラがいなくなると正直困るが、いない間は執事とリオが上手くやってくれるだろう。 だから俺は気持ちよく送り出してやろう。
「そうか、面白い土産を頼むぞ」
「いえ、私が行ったところで大して意味はないでしょう」
「? よく分からないな」
「つまりですね」シュラは満面の笑みで拍手した。
「おめでとうございます若様。 ようやく念願の王都へ行けますよ! 楽しみですね!」
「はい?」
「安心してください。 執事様に許可はいただいてますから」
王都に行けることは嬉しい。
しかしどう考えても勇者なんて面倒くさそうな気がしてならない。
「……ああ、楽しみだ」
きっと抵抗は無駄で、全て決まっていることなのだろう。
人生、時には諦めも肝心である。
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