第4話:貴族のパーティーと悲鳴

「それにしてもダンジョンってすごいですねえ」


 メイドが珍しい果物を切り分けながら言った。


「こんなの王都でも食べれませんよ! 領民の魔力がこれになるって未だに信じられないです」


 「そうか」俺はため息混じりに言う。 収穫祭から数日、どうにもやる気が出ない。


「もー、まだ落ち込んでるんですか?」

「だってあれが祭りか?」

「祭りじゃなくて収穫祭ですからねえ」


 収穫祭とは神に感謝と豊作を願う、ものらしい。

 俺が期待していた酒を飲んで踊って楽しい祭りとは全く別物だったのだ。


「はあ、やっぱり王都に行くしかないか」


「そんないいもんじゃないですよー」メイドは王都に関していつも否定的だ。

 メイド曰く、王都なんて人ごみは鬱陶しいし、高貴な方が住んでいる故の決まり事も面倒らしい。


「そんなことよりもっとダンジョンを大きくしましょうよ!」

「嫌だね」


 領民が毎日のように税を納めているおかげで魔力はそれなりに貯まってきている。


 だからといってダンジョン創りにかまけていては前世と変わらない。


 今世では人間としての生活を楽しみたいのだ。 ダンジョンは趣味でいい。


「なんか面白いことないかなあ」

「坊っちゃんにお手紙が来ております」


 どこからともなく現れた執事が懐から封筒を取り出した。


「どこから沸いてきた!?」

「そんな冗談をおっしゃっている場合ではないかもしれません。 宛名をご覧ください」


ーーブラオ家カニス、南部の交流パーティーのご案内。


「パーティーか……」

「周囲の結束を固めるためのもの。 または取り纏め役との顔合わせといったところでしょうか」


 貴族のパーティーと聞いて、きらびやかな人々、ご馳走の数々、宝石のようなスイーツ。

 頭の中に一瞬にしてキラキラした世界が広がった。


「どうされますか? 坊っちゃんは貴族としての勉強も初めたばかりですし、今回は遠慮して」

「行くぞ! パーティー!」

「正直申し上げますと、まだ作法も完璧ではないですから、恥をかかされるかもしれません」

「やだやだ!行きたい!」

「どうしてそこまで……」


 どうして、そんなの決まっている。


「楽しそうだから、だ!」


 当日までみっちり勉強することを条件に執事を説得し、俺は貴族のパーティーへ参加することを許されたのであった。



 迎えの馬車(有料)に乗ること半日ほど、ようやくパーティーの会場である南部有力貴族、ブラオ家の屋敷へ到着した。


「おお、ちゃんと貴族の屋敷って感じだ」


 デカイ門構えに、デカイ屋敷、そして美しく整えられた木々や、噴水のある庭。


「これは料理も期待できるな」




 屋敷に通されると、想像通りのきらびやかな世界が広がっていた。


着飾った美男美女、豪華な食事の並んだテーブル。


「今日はよく集まってくれた。 知っているとは思うが私はブラオ家カニスだ。 新しい世代を担う者同士、存分に楽しんでくれ」


 主催の男がそう告げるやいなや俺は目を付けていた料理へ直行。


 談笑する周りを尻目に料理を堪能していく。


(なんかお洒落な味だ)


 一息付いて誰と話すでもなく壁際でぼんやりしていると、一部の集団が庭にいることに気づいた。


「見ない顔だね」

「あ、初めまして。 キックル家のラビリスと申します」


「へえ、君が噂の」声を掛けてきた美少年は意味ありげに笑う。


「噂?」

「まあ色々と聞いてるのさ。 けれど噂はあくまで噂だから。 僕はラケルタ、よろしくね」


 ラケルタによると俺は噂によると王女を傷物にしたとか、他国の貴族と揉めたとか、手が付けられない悪童で家を勘当されとか言われているらしい。


 記憶を漁ってみれば思い当たるふしはあるのだが、わざわざ言う必要もないだろう。


「まあよろしく。 ところで、外のあれは何?」

「ああ、彼らは南部の落ちこぼれたちだよ。 繋がりを深めても何の利益にもならない、むしろ害になり得るものたち。 現段階ではね」

「誰が?」

「そりゃあカニス様だろう」


 カニス・ブラオは容赦のない人物のようだ。


「ふーん、あんまり気分のいい話じゃないね。 どうでもいいけど」

「ここで正義を持ち出すようなら嗤ったのに」

「ラケルタさんも良い性格してるね」


 面倒ごとに関わらないことが一番だ。


 貴族も大変だなあ、呑気に考えていたその時、


『やめて下さい!!!』


 そんな叫びが庭から聞こえてきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る