第3話:楽しい思い付きと執事
「この村は何もないなあ」
畑と民家が少し、牧歌的な雰囲気の景色を横目に俺は思うーーやはり都会に行かねば、と。
「そんなことないです! 手付かずの自然! そして空気が美味しい! おまけに静かです!」
「それはもはや人の住んでいる場所ではない」
「若様がんばって!」
メイドに応援されても、今の俺ができることなどない。
この領地の領主としての仕事は今のところ執事がしているが、ここには特産もなく、人も少ないため「このままでは坊っちゃんが継ぐ頃には領民はいなくなるかもしれない……」などと執事が頭を抱えているところを見た。
新しい領民を募集しようにも旨味がない。 未来がない。 トキメキがない。
つまり俺とってもひっじょーーーに退屈な場所ということである。
領地の真ん中に通る砂利道を進む途中で俺は足を止めた。
「ここは広場?」
それなりの広さの地面が均されているだけの何もない空間だ。
「はい、領民の憩いの場になるはずだった場所ですね。 かつては収穫祭なんかも計画されていたようです」
「今は使われていないのか」
「みんな自分が食べるので精一杯ですから」
(祭りか)
見たことはないけれど、でっかい火を囲んで酒を呑みながら踊るものだというとは知っている。
「よし、収穫祭やろう!」
「うぇ!? なんですか急に?! というか無理だって話しだったじゃないですか!」
そう、領民は食べるだけ精一杯である。 そしておまけに金もない。
しかしそこはダンジョンで解決できる。
先ずやるべきはーー
「今夜、全員を集めろ」
「な、何をしようとしてるんですか?」
ーー税を失くせばいい。
※※※
「よく集まってくれた」
領民を前に堂々と話す姿は少し前の坊っちゃんとはまるで別人だ。
「俺はかつて行っていた収穫祭を再び開きたいと考えている」
収穫祭なんてする余裕はこの領地にはない。 神への感謝は大事だが、それよりもまず私たちが飢えないことが大切なのだ。
しかし坊っちゃんは「楽しそうだから」そんな非合理な理由で行動を起こした。
「みなは思っただろう、今日の食事さえ困るっているのに出来るわけないと。 だからそのためにルールを変えようと思う」
坊っちゃんには不思議な力がある。
魔力を対価に想像する、神の如し力だ。 坊っちゃんはそんな大層なものじゃないとおっしゃられたが、私にはそうは思えない。
「もう税として作物を納めなくていい」
今の坊っちゃんは成長した姿なのか、それとも何かに取り付けれているのか私には判断できない。
しかし確めようがないことを考えるのは無意味だ。
「その代わりこの玉ーーダンジョンコアーーに魔力を注ぐことを代わりの税とする」
だから私は坊っちゃんをこれまで同様に導き、支えよう。
「さあ、これで少しは生活に余裕が出るだろう。 収穫祭に賛成の者は拍手してくれ」
その日、久し振りに領民の歓声を聞いた。
※※※
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