第2話:貴族のバカ息子と執事とメイド

 前世の記憶を取り戻してから数日。

 ラビリスという人間は貴族の息子としてかなり出来が悪かったことが段々と分かってきた。


 俺が暮らすのはそれなりの屋敷なのに使用人が後見人の老執事と若メイドしかいないのだ。

 さすがに少なすぎるだろう。


「みな坊っちゃんが追い出したのです」


 執事に聞くと、俺の癇癪に耐えられなくて逃げたり、俺が勝手に追い出したりしていたようだ。


「そうか」


 あまり記憶がない。 ラビリスにとって彼らは取るに足らない存在だったのだろう。


「俺ってかなりクズだったんだなあ」


 しかし終わったことを嘆いても仕方がない。 とにかく今は何か楽しいことをしたい。


「王都が見たいな」


 前世でも冒険者が王都の様子を楽しそうに話していたことを思い出す。


 いつでもお祭り騒ぎで、人が集まる場所らしい。


「無理です」

「執事! なんで!?」


 どこからともなく出てきた老執事が顔をしかめて答えた。


「王都に行くにはお金がかかります」

「俺は貴族だ! 金ならあるだろ?」

「ありません。 うちには領民は少ないですし、蓄えもありません」


 俺はどうやら貧乏貴族のようだ。


「それに外はモンスターや盗賊がいますから危険です。 控えめに言って死にます。 許可できません」


 執事が許してくれそうもないので、俺は諦めーーるわけにはいかない。


 今世では後悔しないように生きると決めたのだ。

 



 とはいえ無理なものは無理なので、今は一旦別のことへ目を向けていこう。


 俺は一人、中空に手を伸ばし呟く。


「ダンジョンコア生成」


 懐かしい言葉だ。 キーワードに従って魔力が消費され、丸い玉が虚構から生み出された。


 これはダンジョンの元であり、心臓だ。


 そう、この世界でも俺はダンジョンを創ることができるらしい。


「ダンジョン創造」


 玉が消え、木製の扉が現れる。 その先には二メートル四方の土に囲まれた空間が広がっていた。


 俺はこの世界でもダンジョンマスターとしての能力を使えるらしい。


 しかし前世のように誰かと戦う必要も、殺される不安に怯える必要もないのだ。


 なぜならこの世界にはダンジョンが存在しない。


「これで金になるものを産み出せば……なんてな。 神でもあるまいし」


 ダンジョンの空間を広げるにも、モンスターを産み出すにも、アイテムを産み出すにも魔力が必要だ。


 コツコツ魔力を貯めて金塊を生み出すこともできるが、それなら作物の収穫を待つほうが早いかもしれない。


「魔法か魂を吸収するのが効率はいいけど、それじゃあ前世と変わらない。 どうしもんか」


「お困りですか?」


 振り返ると、若いメイドがこっちを不思議そうに見つめていた。


「こんな扉ありましったけ?」


 これは面倒なことになった。


「これは俺の秘密の能力なんだ」

「はあ、まあそうなんですか。 ところで!」


 メイドはどうでも良さそうな返事をして、大仰にカーテシーをした。


「私、本日より坊っちゃんの身の回りのお世話をすることとなりましたシュランゲと申します。 シュラとお呼び下さい」

「可笑しなことをしないための監視か?」

「最近の坊っちゃんは何かと心配なんですって!」


 確かに記憶が戻ってからは以前とは別人のような行動を取っていたし、王都へ行くことを諦めていないこともあの執事は危惧しているのだろう。


「分かった、ただ坊っちゃんはやめてくれ」

 


 


 


 

 

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