ダンジョンのない世界のダンジョンマスター~追放された貴族に転生したので自由に余生を過ごします~
すー
第1話:ダンジョンの終わり
(ああ、やっと終わった)
ダンジョンの最下層で、戦士の剣が俺を貫いた。
(おめでとうダンジョンクリアだ)
ダンジョンマスターになって数百年、締めの言葉さえ言えず俺は死ぬらしい。
喜び合う冒険者たちの声が遠く聞こえる中、俺は退屈な走馬灯を見ていた。
モンスターと冒険者の戦いを眺める日々。
いつ自分の喉元へ刃が突き付けられるか不安に苛まれる日々。
自身の存在意義を見いだせず虚しくなる日々。
そんな褪せた記憶の中で唯一輝いて見えたのは人間の営みだった。
仲間を失い、悲しみ、それでも前へ進む彼らの表情が。
意見の違いでぶつかり合い、しかし支え合う彼らの戦いが。
様々な痛みを抱え、時には無様に敗走していても失わない瞳の輝きが。
羨ましかった。
(そうか、俺は人間に興味があったのか)
人間はいつだって敵だった。
けれど今、ダンジョンマスターという役目を終えてみれば俺が虚しさを感じていた理由は簡単だ。
俺は人間になりたかった。
彼らのように輝いて、前に進んで、自由に選択をして息をしていたかった。
(いや、そんなのは言い訳か)
人間になれたとして俺は満足な日々を送れただろうか?
ダンジョンマスターであっても、ダンジョンと人間は敵同士という常識を思い直すことが出来れば何かを変えられたのかもしれない。
現状に甘んじ、思考を止めてしまった自身の行動力の無さが全てなのだ。
死んでから後悔なんて意味がない。
分かってる。
それでもーー
ーーもしも人間に生まれ変われたら、そんな風に想ってしまうんだ。
そして最後の意識も消えて、
「え?」
ぼんやりとした視界。
とても長い夢を見ていたようだ。
起き上がって自分の部屋を見渡す。
立て掛けられた鏡に写る小太りの少年はふほっぐキックル家の三男ラビリスというらしい。
知っているけれど知らない記憶が廻る。
誰かに自分を見て欲しかったこと。
鬱憤を周りにぶつけてしまったこと。
もう手が付けられないと田舎の領地に追いやられたこと。
「俺、人間だ」
願いが叶った。
どうやら俺はラビリス・キックルという少年に転生し、前世の記憶が今甦ったようだ。
家を追い出されぽっかり空いたラビリスの心の穴が、俺の歓喜で埋まっていく。
もう俺は、ラビリスは、絶望も悲しみも虚しさも苛立ちもない。
あるのはただ一つ、
「よし! 二度目の人生、全力で楽しもう!」
生きることへのトキメキだけだった。
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