篠原千晶(9)
「は〜い、お邪魔しますよ〜」
関口がおどけた声でそう言った。
ここは……社員と言うか組員丸ごと行方不明になった「安徳セキュリティ」の本社。……組事務所とも言うが。
「人の気配はする?」
そう言ったのは、私達より少し前に、このチームのメンバーになった玉置レナ。コードネームは「
通常の「魔法」や「超能力」とは別系統らしい熱や炎そのものを操る能力を持っている。
で、「通常の『魔法』や『超能力』とは別系統らしい」ってのが厄介な点で、私達「魔法使い」はレナの能力が発動する「気配」を感知出来ず、レナの方は……霊感はほぼ
通常の魔法は対生物・対霊体特化型で、レナの能力は物理的な「熱」……それもかなりデカいモノ……を生み出せる。
見方によっては、通常の魔法とレナの能力は「互いの弱点を補い合える」が……同時に、巧く連携するのは言うほど簡単では無い。
「居ないけど……」
『微かに異音を検知。電動モータの音である可能性大』
後方支援要員から連絡。
私達が被っているヘルメットの聴覚センサーは、かなり小さな音まで捉えられる。そして、その音声は、後方支援チームのPCがリアルタイムで分析を行なっている。
『足音らしき異音も検知』
「暗視カメラの感度上げ……いや待て、変な音がしてる方向を指示して」
「へっ?」
『
「全員、ライトOFF。カメラも通常に切り替え。あっちを向いて」
「まぁ……」
「乗ってみるか……」
『足音およびモータ音までの距離……5m以内』
「ヘルメットのライト、光度最大で点灯」
閃光の中に浮かび上がった影は……人と似て非なるモノだった。
だが、その仕草は……妙に人間っぽいモノだった。
その
続いて、もう片方の手。
更に両足と首が胴体から離れる。
傷口からは煙が吹き出していた。
「前から聞きたかったんだけど、あれって……」
「あたしにも原理は説明しづら……えっ……?」
私は……多節棍を振る。
「カメラ、暗視モードに変更」
その小柄な……誰かは、多節棍を後ろに飛び去って避ける。
そいつを「観る」。
いわば……自分の「気」を放って相手の「気」の変化を確認する。
黒一色。
顔にも黒い目出し帽。
両手には刃に反りが有るナイフ。
体格は……瀾より少し大きい位。
でも……。
こちらの「気」が受け流されている。
私の放つ「気」がレーダーの電波なら、まるで、電波を反射しないステルス戦闘機だ。
自分から「気」を放って、他者の存在を確認する場合でも、よほど注意していないと見落してしまう可能性が有る。
さっき、閃光を放った時に、ほんの一瞬だけ影が見えていなければ気付かなかっただろう。
「厄介な相手だ……引くぞ」
「
「ぐへっ?」
レナの熱を操る能力で起きる空気の膨張。その衝撃波が黒づくめの誰かを吹き飛ばす。
「一端、戻る。サーバー・ルームに侵入もクソもない。ここには、まだ人が居る」
私は後方支援チームに連絡。
『
「ああ……やっぱり……」
『そう。防犯カメラ網は生きてるけど……今、それを利用出来るのは、安徳セキュリティだけ』
どうやら、この町でヤクザ同士の抗争……おそらくは身内の喧嘩……が始まり……そして、町の「目」を喧嘩を始めたヤクザの片方が独占しているらしい。
「何か変じゃねえか?」
走っている途中で、関口がそう言い出した。
「何だ?」
「さっきの、あの黒づくめのチビ……どう考えても対『魔法使い』専門の殺し屋だ」
そうだ……「隠形」系の魔法の達人。それを、どうやら暗殺に利用しているらしい。
そして……例えば攻撃用の魔法の多くが相手の「気配」で狙いを付けているので、あそこまでの隠形術の使い手は、他の「魔法使い」にとって、かなり厄介な相手になる。
ただし……殺しの対象が「魔法使い」以外であれば……あれだけの技術・能力は明らかにオーバースペックだ。
「
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