篠原千晶(8)
『じゃあ、事情を知らない新人さんが多いんで、まずは背景の説明だ』
「正義の味方」が使っている専用の衛星回線を通じてWEB会議が始まり、後方支援要員の権藤さんが、そう切り出した。
『始まりは、前世紀。まだ「特異能力者」の存在が一般に知られていなかった頃。でも、当然、「妖怪系」は他の「妖怪系」の存在を知っていたし、「魔法使い」は他の「魔法使い」の存在を知っていた。で、この久留米で、チンケなヤクザの組長だった「河童」系の能力者が、一代で自分の「組」を九州有数の暴力団に育て上げた。その暴力団の表の顔が「安徳ホールディングス」とその子会社からなる「安徳グループ」だ』
たしか……行徳清太郎。
つい最近まで
『でも……そいつは、ある妄想と云うか……妄執を持っていた。日本のいわゆる「河童」系は、大きく分けて2系統有る……らしい。1つは平清盛の時代に、インドまたは東南アジアと思われる地域から入ってきた者達の子孫。もう1つは、戦国時代に中国の長江流域と思われる地域から九州に入って来た者達の子孫。後者が……熊本の「水虎」で、前者が残りのほぼ全てだ。この辺りに多い「筑後川・遠賀川」系も、前者の一種だ』
続いて画面に2つの写真が出る。
片方が筑後川・遠賀川系の河童。
もう1つが水虎。
筑後川・遠賀川系も水虎も……いわば「亀人間」。
胴体は甲羅になっており……昔の妖怪の絵の「
ただ、水虎系の方は、体に虎縞状の模様が有った。
『安徳グループの先代組長の妻は……政略結婚で結婚した人間のヤクザの女性。だたし、配偶者の親は、結婚して十年経たない内に行方不明になり、配偶者の親が組長をやってた組は、安徳グループに吸収された。今の安徳グループ全体の組長は、先代組長と法律上の配偶者との間の子供』
『なんですか、のっけから、そのキナ臭い話は?』
そう感想を言ったのは関口。
『話は、これから更に酷くなる。安徳の先代組長は、
『へっ?』
『人間や他の「異種」「妖怪系」の血が混ってない「純血の河童」を復元する。それが安徳の先代組長の抱いてた妄想だった。ただし、実験は失敗』
続いて画面に表示されたのは……。
『な……なに、これ?』
緋桜の……「理解不能なモノを見てしまった」と言いたげな声。
白く巨大な……「妖怪系」だとしても
顔や腕の長さは……左右非対称の奴がほとんど。例えば、目の大きさなんかも、左右で明らかに違う。
一応は「河童」っぽい姿だが、ちゃんとした「甲羅」が有る普通の「河童」(普通って何だ?と云うのは置いといて)に比べて、皮膚は明らかに柔らかそうだ。
『河童ってのは、本当は一系統じゃなかったらしい。日本に入って来た時点で「たまたま良く似た姿・能力の複数系統からなる混成種族」だったらしい。それを「単一系統」だと云う間違った仮定をした上で「原種」を復元しようとした。当然、出来るモノは……』
『胸糞
関口の正直な感想。
『けど、この「実験結果」が出たのは、先代組長が死んだ後。人間の血の方が濃いらしい今の組長からすると、とんだ「親の代の負の遺産」だ。しかも、先代が、熊本の水虎系を「河童の中の異端」と見做してたんで……安徳グループと、熊本の水虎系の河童が中心になってる暴力団「龍虎興業」は今でも中が悪い』
「なるほど……だから……この前も、この辺りの河童と、虎縞の河童が喧嘩してた訳ですか」
『そう云う事。じゃあ、最後に一番胸糞悪くなる話だ。安徳の先代組長は、日本各地から誘拐してきた「河童」の子孫の内、若い女性を……』
『やめろ。もう聞きたくない』
関口が絶叫。
『じゃあ、手短にエログロなしで説明するよ。早い話が、安徳の今の組長には母親が違う兄弟姉妹がゾロゾロ居る……または、居た』
なるほど……御家騒動の火種を抱えてた訳か。
『で、安徳の組長にとって、自分の立場を脅かしかねない身内の中でも……一番仲が悪かったのが……こいつ行徳清秀だ』
画面には髪を銀色に染めた……三十前後の男の写真。
『そして、こいつは、この前、みんながブチのめした久米銀河の直属上司で、今、障害が起きてる防犯カメラ網を運営してる「安徳セキュリティ」の社長だ』
『ところで……安徳セキュリティの防犯カメラ網は……本当に障害が起きてるの?』
そう訊いたのは瀾だった。
『それ調べる為に……仕掛けてきて欲しいモノが有る』
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