高木瀾(1)

「おねえ〜さぁ〜ん♪」

「会いたかったよ〜♡」

 緋桜の声は、いつも通りだが、レナの声は、いつもより明らかにカン高かった。

「お前さ……彼女出来てから変ったな」

 私は、高専での実習が長びいて来るのが遅れたレナにそう言った。

「どんな風に?」

「何て言うか……私の敵になった」

「うれしいから、うれしそうにしてんだけど、悪い?」

「ラン、キモいよ」

 そう言ったのは緋桜。

「僻みたくなる気分だから、僻みっぽい事言ってんだ。悪いか?」

「うん」

「……」

「ランが女の子にモてない理由は簡単だよ。女の子にモテたい気持ちが表に出過ぎてキモい」

「自覚してる。私も修行が足りんな」

 その時、ひなたと妹の治水おさみ携帯電話ブンコPhoneを取り出した。

「何やってる?」

「ごめん、今のやりとり、もう1回やって」

「何でだ?」

「いや、お宝映像を撮り損ねた」

「はあ?」

「瀾ちゃんが言い負かされるの、めずらしいからさ」

「やりゃ言いんだろ……おまえさ、かのじょができてから……」

「おい、わざと棒読み台詞は止めろ。撮る意味がない」

「あぁ、そうだ。話は変るが……頼んでたモノは出来てるけど……現場に出るようになったら、いつもの服はやめろ」

 私は緋桜にそう言った。

「何で?」

「正体がバレかねないからだ」

 そう言って、私は、打ち合わせ用の大型の机の上に置かれた緋桜用の「ヒーロースーツ」が入った箱の蓋を開け……。

 その場に居た全員が、しばしの沈黙。

「あ……あのさ……これ……何?」

 最初に口を開いたのはひなただった。

「ボク用のスーツだけど」

「ええっと……」

「どうかした?」

「今、お前が着てる恐竜の頭と尻尾が付いてる変なコートと、ほぼ一緒じゃね〜かッ⁉」

 そこには……「前から見ると変なヘルメットだが、横から見ると恐竜の顔に見えなくもない」と言ったデザインの迷彩模様のヘルメット、そして、フード付きの迷彩柄のツナギの服が入っていた。

 ツナギと言っても……要所要所には、ウチの親類の会社である高木製作所が開発した新素材「不均一非結晶合金」製のプロテクターによる補強がされており、それ以外の部分も、ある程度の防弾・防刃効果が有る素材で出来ている。

 そして、フードは……一〇年ほど前の子供向けアニメに出て来たタルボサウルスのタル坊の顔になっていた。

 早い話が……ひなたが言った通り、素材とコートかツナギかの違いは有っても、緋桜が、ここに来る時に着ていたコートと、ほぼ一緒だった。

「あと……安全性の面から指摘せざるを得ないが……」

 今更だが、私は注文を受けた際に感じた最大の疑問点を訊かざるを得なかった。

「何?」

「この尻尾、何の意味が有る?」

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