第一章:ナイトメアー・ビフォア・クリスマス

篠原千晶(1)

「ええっと……正義の味方わたしらって、コンビ組む時は基本的に『能力が被ってない奴同士』じゃなかったですか?」

 私の目の前に居る冴えない小太りの眼鏡をかけた中年男に、そう訊いた。

「そこが困った所でね……。君と関口君が入るまでは、ウチのチームは『魔法使い』系が不足してたけど……今では、前線要員の半数近くが『魔法使い』系だ」

 権藤敬三……福岡県久留米市と小郡おごおり市、そして佐賀県鳥栖とす市と基山きやま町が守備範囲であるウチのチームの後方支援要員の中でも一番の古株だ。

 五分刈りの私が他人ひとの髪型をとやかく言うのも何だが……いっそ、私みたいな髪型にした方が、髪の気が薄くなってる部分が目立たなくなる気がする。

「能力的には関口と組むと互いの欠点を補い合う感じだけど……性格的には関口と似過ぎてる気がする。どっちかが間違った判断をするような状況では、もう片方も似た間違いをする危険性が有る」

 横から、そう補足したのは……そこそこの筋肉は付いてるが、身長に関しては女としても小柄な方のヤツ。

 高木らん……「正義の味方」としてデビューして1年経ってないのに、既にネット上で「悪鬼の名を騙る苛烈な正義の女神」なんて渾名(なお、本人の前で口にすると不機嫌になるので要注意)を付けられてる化物だ。本業は公立では県内でもトップ3に入る進学校に在学中の高校生。

 ちなみに、こいつの伯父であり日本最強の「正義の味方」候補の1人であるコードネーム「羅刹天ラーヴァナ」、またの名を「護国軍鬼2号鬼」は身長一九〇㎝・体重一五〇㎏超えの筋肉の塊。伯父と姪なのに、何で、ここまで体格に差が有るかは謎だが。

 なお、護国軍鬼2号鬼の本業表の仕事は日蓮宗の坊主で、しばらくの間は日蓮宗名物の冬の山籠りの荒行で若い坊主を指導する為に居なくなっている。どうやら、「正義の味方」の仕事で身に付けた救急救命のスキルを、荒行で何か有った若い坊主を助ける為に使っているらしい。

「なぁ、なら、あたしみたいに強化服パワードスーツ使ったらどうよ?」

 続いて関口がそう言った。

 私とこいつは……十年前の富士山の噴火で大量発生した「関東難民」が暮す人工島の1つ、壱岐と対馬の間に有る「NEO TOKYO SITE04」こと通称「台東区」の「自警団」のメンバーだった。

 もっとも、私は「上野」地区が縄張りだった「寛永寺僧伽」に、関口は「入谷」地区が縄張りだった「入谷七福神」に所属していたが。

 で、先月、ある事件で瀾が私の当時の所属組織の大ボスゴッドファーザーの一番弟子を叩きのめした時に、結果的に私と関口はそれに手を貸した形になって、「台東区」に居られなくなり、「本土」に逃亡する事になった。

 そして、「本土」の「正義の味方」に再就職したはいいが……やってる事は年々役に立たなくなってゆく警察に代る民間の治安維持組織って点では同じなんだが「文化」は何から何まで違う。

 「自警団」は今時珍しい超体育会系・上意下達型の組織なのに対して、「正義の味方」は上下関係が緩くて、人数が要るような事件の場合は、小さいチームが集って一時的に大きなチームを作り、指揮官が誰になるかは時と場合に依る。

 「自警団」は主要メンバーの身元を公表してる場合も有るのに対して、「正義の味方」はメンバーの身元は後方支援要員・非戦闘員に到るまで厳重に秘匿している。それも、同じ「正義の味方」であっても他チームのヤツの前で同じチームのヤツを本名で呼ぶのさえ御法度だ。

「何って言うか……強化服アレしょうに合わん。お前みたいな筋肉バカならともかく、私の戦い方は繊細なんでな」

「はぁっ⁉ 何だと?」

「ウチで使ってる強化服の制御AIには使用者の癖や動きを学習する機能が有る。使えば使うほど動きは自然になっていく筈だ。逆に使わなければ、繊細な動きは出来ないままだ」

 私と関口がいつもの口喧嘩を始める寸前に瀾が口を挟む。

「そんなもんか……考えとくよ」

「じゃ……緋桜君とは……篠原君と関口君に交代でコンビを組んでもらって……相性が良い方を正式な相棒バディにするか」

 権藤さんは、そう結論を出し……。

「じゃ……じゃんけんで、どっちが先か決めるか」

「ほい……勝った方が先でいいか? 最初はグー……」

 結局、勝ったのは私だった。

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