最終話 最後の壁
リキ、オウマ、ゴウラ、ゴウキを倒し、ようやくセツナはイマを弔う事が出来る。そう――思っていた。それを止めたのは他でもない、レイだった。
レイはセツナの袖を掴んで離さない。そこから一歩も動こうとしない。
「どうした? 俺はこいつを早く眠らせてやりたいんだ」
「そうしたら、そうしたらあなたはどうなるの?」
「……」
「死んじゃうんじゃないの!?」
悲痛な叫びだった。心の底からの言葉だった。セツナはレイの一言に貫かれ、自分が妹を弔った先の未来の事を一切考えてなかった事を悟る。それは単に先延ばしにしていたのではない。レイの――彼女の言う通りだ――セツナは恐らく妹の後を追うだろう。だってそうだろう。奪われた家族、その唯一の希望はもうなかった。だとしたら、進むべき、いや閉じるべき頁は
「ごめん、でも」
「でもじゃない! 生きてよ!」
「無理だ……俺には何も残ってない」
「私じゃダメ!?」
ここで拒絶したら彼女は悲しむだろう。それはセツナも分かっていた。しかし、答えは決まっていた。
「俺は妹と同じ所に行く」
「――ッ! この分からず屋!」
セツナの腕の中に居るイマが動いた。
「生命を操るって事がどういう事か教えてあげる」
「レイ、やめろ」
「自分の妹相手に戦える!?」
イマの遺体はセツナの下を離れレイの前へと跳躍する。その白と黒が反転した瞳は生者のソレではなく、異能でさえ冒涜するようなおぞましさだった。
「やめろ、レイ、これ以上、イマを弄ばないでくれ」
「だったら誓って! これからも生きるって! 私と一緒に生きるって!」
「――ッ!」
セツナは雷雲を纏う。レイはイマを盾に近寄らせまいとする。セツナの
「どうして、分かってくれないんだ……ッ!」
「あなたこそどうしてわからないの!? あなたが死んで悲しむ人が! 此処にいるのに!」
「う――ああ――」
それはイマの遺体から発せられた音だった。声ならざる音だった。だけど響きは少しだけ、ほんの少しだけ。
『お兄ちゃん』
そう聞こえた気がした。
それだけでセツナの心を折るのには十分だった。膝から崩れ落ちる。涙が流れる。嗚咽が漏れる。イマを呪縛から解き放ち、レイはセツナの下へと駆け寄った。そしてへたり込む彼の頭を抱きしめる。
「ごめんなさい、ごめんなさい、許される事じゃない。許してなんて言わない。だけどお願い。生きて」
「うあ、ああ、あああ、ああああ!」
レイの胸の中でセツナは泣きはらした。夜明けが来る。宇宙ステーションの残骸が成層圏で燃え尽きて流星群のようになっている。朝焼けと相まって、その光景はまるであの日の再現のように見えた。燃える都市、降り注ぐ隕石群。しかし、違う。これは新たな一歩の始まりの希望の再現だ。とある兄妹が両親の呪縛から抜け出したように兄は妹を奪われそこから生まれた雁字搦めの呪縛から解き放たれたのだ。
「もう大丈夫?」
「ああ、ごめん、みっともないところを見せた」
「それでもあなたが好き」
「もう死ぬだなんて言わないよ。だから一緒に家族を弔ってくれないか?」
「勿論、私にとっても家族だものね」
夜明けの太陽に向かって歩き出す二人。もうその歩みを止める者は誰もいない。
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