第12話 セツナVSオウマ 下


 無傷ではない。ボロボロの身体を引きずっている。しかし、確かにセツナは立っていた。


「なんで立ってやがる!? 摂氏一万度の火力だぞ!」

「現実に強度があるのなら――」


 セツナが一歩、前に進んだ。それだけで雷雲が立ち込める。それだけではない、彼が踏み出した一歩は宇宙ステーションの瓦礫が無いである。セツナは一歩、また一歩とオウマの支配領域を超えていく。酸素の無いエリアにまで到達する。


「何故だ! お前は今、成層圏より上にいるんだぞ!? どうして生身でいられる!? 心因性現実希釈症候群トラウマだとしても! 第二次変性セカンドフェーズだとしても! それは有り得ない!!」

「だったら、これが、第三次変性サードフェーズだ」

「そんなものデータに――がっぁ!?」


 比重の偏った質量を持つ雷雲。それがオウマが瓦礫で作った鎧のコア、中心部を掴む。対星砲を引き剥がす。露わになるオウマの本体、それを雷雲で掴み鎧から引き抜く。


「このまま握りつぶしてもいいんだぞ」

「そうしたきゃ、そうしろよ」

「……そうだ――」

「待って!」


 そこに現れたのは宇宙移民計画用のコンテナに乗ったはずのメイだった。


メイ……どうして戻ってきた……づっ!」

「オウマ! 上位個体生命管理担当が命じます! 生きなさい!」

「グッ……!? め、いれ、いを受諾しまマMA……す」

「君は……」


 どうにもイマに似た少女を目の前にすると調子が狂うセツナ、オウマをそっとメイの下へと降ろす。酸素は雷雲の防護壁で宇宙ステーションだったものを包み込み確保している。


「どうして?」

「彼は私と同じだから、彼は自我が無かったから覚えていないけど、彼と私は同じ施設で生まれた」

「……イマから?」

「そうお母さまオリジナルから」


 セツナとしては黙り込むしかない。――実験動物以下の扱いを受けた妹、その写し身。そんな彼女にどんな感情を抱けばいい?

 すると、レイが駆け寄って来た。


「どうした?」

「ねぇ、セツナ、あなたは私も憎い?」

「……ああ、そうか、忘れてた。早くイマを地上に還そう」

「うん」


 会話になってない会話、でも、それでも通じたものは確かにあった。兄は妹の亡骸を抱えて帰還用のコンテナに戻って行った。

 コンテナの扉を開く。

 そこには。


「はーい、ゲームセット」


 大量の白い兵士が待ち構えていた。


「お前は」

「愚弟がお世話になってるね? セツナくぅん?」

「ゴウラか……!」

「第三次変性だかなんだか知らないけど、千人規模のイザナミ兵を相手に耐えうるスペックじゃないのは先ほどの戦闘で計測済みよ♪」


 雷雲がセツナに集まる。雷撃が迸る。雷光の化身と成る。


「さぁてショウタイムよ、宇宙移民イザナギ計画。最終段階へと移行!!」


 ゴウンゴウンと宇宙放逐用のコンテナが動きだす。白い兵士が雷雲へとなだれ込む 。セツナはそれらを蹴散らしイマを抱え、レイを背に、ゴウラへと突き進むのだった。

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