第10話 培養液
宇宙ステーション最奥。そこには緑の液体に浮かぶ白衣の少女が居た。アルビノの瞳を瞑った少女、それをセツナが見間違えるはずもない。
「イマ」
「彼女はここでモルモット、いえ、プラナリアのような扱いを受けたと聞きます」
「その成果がお前か?」
「私を、憎みますか」
それには答えない、コンソールをいじると少女を水槽から排出する。液体と共にイマが地面に倒れ伏す。
「イマを……弔いたい」
「――はい」
宇宙ステーションから地上に降りるにはまたコンテナに乗って移出されなければならない。しかし、そこで何者かが立ちふさがる。
それは白い兵士に見えた。
しかし、その表情が他の兵士と違う事を感じさせた。
笑っている。
「なあ、叔父さん、少し話をしないか」
今更、そんな煽りにセツナは反応しない。黙ってそいつの隣を通り過ぎようとする。そこで見えざる力で引き留められる。
雷撃を兵士に見舞うセツナ、兵士はその雷撃を空中で止める。
「逸るなよ、大事な話なんだ」
「……手早く済ませろ」
「ああ、母さんのした――おっと遺体が腐っちまう前に終わらせよう」
「ああ、話によってはお前を殺さなくちゃいけない」
おっかないね、とジェスチャーを送る兵士、案内するように手招きする。そこにはカフェテリアが配置されており、席に座る、そこにはもう一人、先客が居た。イマに似ている少女。
「私の名前は
「俺はオウマ、新人類のリーダーだよ叔父さん」
「……新人類、か」
「驚かないの?」
セツナにはなんの感情もないようだった。人生の行き止まりに辿り着いてしまったような顔。
彼は妹を奪われ、目標を奪われたのだ。
「じゃあ、あの対星砲はなんだ?」
「新人類を宇宙放逐の後。
「……そんなでたらめに付き合えと? あの星には、妹が、イマが眠るんだ」
「その事なんですけどね」
椅子に座らせたイマの亡骸を視えざる力で掴むオウマ、セツナは電撃を向けるが跳ね返される。
「テメェ!!」
「おっと、これは失礼、でもね、このサンプルは必要なんですよ」
「決裂だ。こっからは殺し合いしか起きないぞ」
「だから逸るなって。どうです叔父さん、あんたも宙の世界に行かないか? 現在、宇宙移民計画の全権限は俺に託されているんだ。あんたを連れてくなんて造作もない」
「断る。俺は、俺達はこの大地で眠る」
「セツナ……」
レイがその言葉に声を引っかかりを覚える。
――彼は、セツナは、イマと共に死ぬつもりなのではないか。そんな懸念を抱く。
「そうかい、じゃあ、アンタは障害だ。ここで排除する」
「やってみろ」
空間が捻じ曲がり、電撃が迸る。ステーションが崩壊する。空気が宇宙空間へと投げ出される。しかし、セツナ、レイ、オウマ、メイに体調の変化はない。
「俺が空気をサイコキネシスで確保している。俺に生殺与奪を握られた気分はどうだ?」
「今の俺が、死を恐れるとでも」
「くっははは! いいね! 叔父さん! 俺をもっと楽しませてくれよ!」
「オウマ、私は放逐コンテナへ移動しています。おって来なさい」
「了解、メイ姉さん」
メイはその場を後にする。セツナとレイ、そして場を支配したオウマがその場に残る。
――決戦が始まる。
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