第7話 セツナVSリキ 上


 宇宙エレベーターの真下にたどり着く、そこは何の変哲もないトンネルの一角、しかし扉が一つ。避難用と書かれたそれは、確かに電子ロックとも違う認識端末を有していた。しかしそこで。


「よお、小便小僧。ちょっとはマシになったかよ」


 赤髪の少年が現れる。アルビノの少年は真っ赤な瞳を見開く、忘れるはずがない、妹を連れ去った時に居た心因性現実希釈症候群トラウマ罹患者。炎の異能を使う男。リキ。


「お前はァッッッ!!」

「まあ、そう怒るなよ、お前の妹ならうちで保護してやっただろ?」

「言え! イマに何をした!!」

「おー怖い怖い、これだからブラコンは」


 リキはUAZの席を一瞥する。


レイは後部座席か、とりあえず前部は燃やしていいな」


 炎の本流を無造作に振るう、車から降りるセツナとゴウキ。二人は息を合わせて突撃する。


「先手!」

「必勝!」

「はっ! 世迷言!」


 炎の防壁が雷とゴウキの拳を防ぐ。リキは余裕たっぷりに笑う。


「お前らの攻撃ごとき、俺には届かねぇんだよ!」

「セツナ、此処は俺に任せて――」

「悪い、ゴウキさん。こいつの相手だけは俺がしなきゃいけないんだ」


 雷光を身に纏うセツナ、落雷の速度で炎をかわしリキへと迫る。しかし全方位放火、セツナはすんでの所で足止めを喰らう。雷撃で炎を振り払うが、その頃には視界の中にリキがいない。そしてリキはセツナの背後に回り込んでいる。


「死ね、燃え死ね」

「死んでもごめんだ」


 雷撃と炎熱がぶつかり合う。拮抗し、相殺される。辺りの酸素が、奪われ、オゾン化し、二人の息が荒くなる。そこに唐突なラリアットをゴウキがリキに仕掛けた。しかし。


「ちっ」


 微動だにしないリキはそのままゴウキを燃やす。セツナが声を上げる前にその隙を狙って首を掴みにかかる。手で首を掴まれ、持ち上げられる。


「チェックメイトだ」

「誰が……ッ!」


 雷光を再び身に纏う。しかしリキは


第二次変性セカンドフェーズを終えた俺に単純な異能攻撃なんて効かないんだよ」

「セカンドフェーズ……? か、はっ」


 ――どうしよう、どうしよう、あの人が死んじゃう。私を籠から出してくれた人、私と同じなのに違う人、人間、助けなきゃ、助けなきゃ!


「ゴウキさん!! セツナに時間をあげて! 私がセツナをなんとかする!」

「――了解、お姫様!」


 燃やされダメージを負ったゴウキはなおリキに突っ込む。リキは空いてる片手で炎を振りまき蹴散らそうとするが、ゴウキはその炎を気合いで突破した。


「……なに!?」

「これが漢の拳じゃあ!!」


 ゴウキはリキの顔面を思い切り殴りつける。リキは吹き飛び、セツナは開放される。そんなセツナの腕を引っ張り、レイの下に投げるゴウキ。


「後は任せた!」

「はい!!」


 セツナは朦朧とする意識の中で声を聴いた。


 ――今からあなたに激痛が走る。でも大丈夫、死なないし、あなたは強くなる。これであの炎使いに勝てる。


「……それならやってくれ、どんな激痛でも……!」

「……うん」


 光が灯る。暖かい光、しかし、セツナは藻掻き苦しんだ。


「うっ、がああああああああああああ!?」

「お願い、後少しだから……!」


 そして――


「はぁ、ああ、生まれ変わった気分だ」

「あなたは第二次変性を経た。もう空気の抵抗力も気にならない程の電流を希釈した現実に流す事が出来る」

「これでリキを倒す……」


 バチィ!


 ゴウキと応戦していたリキに向かって光の矢が放たれる。咄嗟に炎の壁で防ごうとするが、間に合わない。射貫かれる。再び吹き飛ぶリキ。びくびくと痙攣している。

 しかし炎を纏い立ち上がる。その瞳はどこか虚ろで――


「マズい……不死性ゾンビ状態になってる」

「ゾンビ?」

「跡形も無く消し飛ばさないと、殺せない」

「上等」


 セツナは炎を纏ったゾンビ、リキの前へと立ちはだかるのだった。

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