第6話 610/オウマと命/メイ


 ゴウラは歯噛みする。量産兵士はアラハバキ殲滅に至らず、レイ奪還も叶わなかった。苛立ちながら側近に声をかける。


「営倉からリキを出せ! 命令はこうだ! 宇宙エレベーターの一階でセツナを始末しろとな!」

「かしこまりました」


 ゴウラは衛星の監視映像や設置されたカメラの映像を眺めながら、思案する。


「リキが負けた場合を用意する。第一次変性ファーストフェーズが済んでいた個体が居たな?」

「610ですね」

「それだ。今からメイに会わせて第二次変性セカンドフェーズを起こす。そこが最終防衛ラインに設置する。カグツチ試験は宇宙ステーションにて行う。命と610を宇宙エレベーターからステーションに送れ」

「かしこまりました」


 側近はその場を後にする。ゴウラは楽し気に笑う。


「楽しませてくれよ、バイオエレクトロニクス。相手にどう立ち回るのか、俺を楽しませてくれ」


 ――俺に自我など無いはずだった。だけどとあるモノを見せられた。それは隕石群が降り注ぎ都市を破壊する様子を3Dホログラム再現した映像。それを見て俺は『羨望』の感情を抱いた。すると、他のクローンとは違う心因性現実希釈症候群トラウマが発症した。いやサイコキネシスではあったのだ。しかし、が違った。その威力は一トン。他が1百キロ程度とすると破格と言える。しかし、俺の身体はその力に耐えられなかった。力を行使すると貧血症状を引き起こして倒れる。そんなもの兵士として使い物にならない。俺は廃棄処分を待つばかりだと思っていた。ある日、俺は宇宙エレベーターに呼び出され、そのまま成層圏上、宇宙ステーションに招かれる。そこでメイという少女に出会った。


「あなたが610?」

「はい」

「感情が無いフリなんてしなくていいわよ」

「……」


 ――全て見抜かれているのだろう。ではこれから何が起こる? 欠陥品の処分は彼女の担当なのだろうか。はこちらに手を差し伸べると。


「少しくすぐったいわよ?」


 と言って――


「あ、ああああああああああああ!?」


 610の全身に激痛が駆け巡る。しかし、それも一瞬、彼の全細胞は生まれ変わった。

 メイが610の手を引く、すると、そこには大きな岩があった。軽く一トンは超えてそうな。


「さ、持ち上げてみて? もちろん、サイコキネシスで」

「……はい」


 ――自分は兵士だ唯々諾々と従うだけだ。


 610が大岩に念動力を込める。すると軽々と持ち上げ、身体の変調もない。これは――


「これはどういう事ですか?」

「第二次変性、あなたは最強のサイコキネシストとしてその才能を開花させた。私のおかげでね」

「俺は戦えるのか?」

「ええ」


 610は歓喜した。全てに感謝した。にやっと意味が生まれた。思わずメイを抱きしめる。


「ひゃわ!? ふ、不敬ですよ!?」

「ああ、申し訳ございません!!」

「……コホン、今回だけは見逃してあげます」


 そうして宇宙ステーションにて仄かに甘酸っぱい香りと血生臭い戦闘の香りが入り混じった、混沌が生まれたのだった。


「そうだ、あなたに名前をあげなくちゃ、いくらなんでもシリアルナンバーだけじゃ寂しいわ」

「……?」

「そうね、オウマ、オウマはどう?」

「はい!」


 まるで尻尾を振る子犬。由来すら知らずに。逢魔が時、魔が迫る時刻を指示したというのに。

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