第4話 少女の苦悩
レイがアラハバキ本部で語ったのはアマテラスの中心に屹立する宇宙エレベーターへの秘密の経路だった。
「イマは宇宙エレベーターの最上階にいる? どうして?」
「そこが一番、実験に適しているから……」
そこで無言になるセツナ、拳を握りしめる。怒りで顔が仄かに赤い。ゴウキがセツナの肩に手を置く、
「落ち着け少年『希望を失うな』ウチの家訓でな」
「兄貴に裏切られたアンタが言うと説得力あるな」
「皮肉を言えるくらいには元気らしいな! ハハハッ!」
背中をバンバンと叩くゴウキ、咳き込むセツナ。レイは困惑して二人を見やる。
「私の事、信じるの……? 嘘言ってるかもしれないよ……?」
ゴウキはきょとんとする、大柄な身体に似合わない。セツナはまた「あの顔」をした。それはレイを助け出した時の顔だ。
「「なんだそんな事か」」
二人がハモった。それに驚くレイ。
「示し合わせたの?」
「いや? 此処にいるみんな同じ事、思ってるだけだ。囚われの女の子が嘘を吐くはずがないってな」
「ああ、顔に書いてあるぜ? 『私は嘘がつけません』ってな」
そんな風に二人は談笑する。レイには理解出来ない思考回路だった。彼女にそんな人生経験はない。彼女は籠の鳥。どこまでも閉じ込められた無垢な虚ろだった。
「分からなくてもいいさ、俺達にとってあんたは唯一の光明なんだ」
「イマはツクヨミ財団の研究の要だ。レイ、君のアルビノのような姿を視れば分かる。確実にイマは使われている」
「……」
少女は押し黙る。苦しそうだ。セツナとゴウキはそれに気づかない。
――私はこの人達を騙している。だけど話せない。話す事なんて出来ない。
少女はただ沈黙する。それはとてつもない重荷であったろうに。何故、吐き出してしまわなかったのだろう。それはきっと――
――突如、いつもの白い部屋が暗くなった。何が起こったのか分からないままベッドの隅に座り込んでいた。すると扉が無造作に開かれ、部屋に再び明かりが灯る。そこに居たのは自分と同じアルビノの少年だった。つまり――――がまた生み出されたのだと思った。だけど違った。彼は人間だった。私を助けると言った。その差し伸べらえた手がとても暖かくて――
「貴女達に託したい」
「?」
「なにを?」
「この都市、いえ、この星の未来を」
レイから語られたのは宇宙エレベーターの成層圏上にある宇宙ステーションには地上を狙う対星砲が備わっているという驚きの事実だった。
「奴らが、地上を撃つ、と?」
「それも数日中に」
「確証は?」
「私が移送された事が証拠です、私が宇宙ステーションから地上に送られた時点で、それは『廃棄』と同じ意味なのです」
アラハバキの喧噪が静まり返る。ツクヨミ財団による地上砲撃、理由は不明。証拠は一人の少女の証言。
「止める術は?」
だが反ツクヨミ財団武装組織アラハバキのリーダーであるゴウキは信じた。
「私をもう一度、宇宙ステーションへ、生体認証システムから干渉して対星砲の機能を停止させます」
「ってな訳だ野郎共! お姫様の指示に従って作戦組むぞ!」
アラハバキに活気が戻る。セツナはレイに近寄ると耳打ちした。
(こういう連中なんだ)
「ひゃわっ」
急に傍に寄られてレイは顔を真っ赤にする。本気でその反応が何故か分からずセツナはとぼけた顔をする。するとゴウキがグーで頭の天辺を小突いた。
「何口説いてんだこのスケコマシ」
「す、すけ?」
「ぷっ、あはは」
「あっ、やっと笑った」
――その言葉に、レイは自分が笑っている事に気づく。初めて気づく、そんな感情、知らなかったはずなのに。
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