第3話 レイ
アルビノの少女と少年が対峙する。そこには妙な緊張感があった。生命臨界室と書かれた部屋は簡素な仮眠室にしか見えなかった。少女が口を開く。
「誰?」
「俺が分からないのか……? いや無理もないか、もう十年も経って……」
「私に知り合いはいないわ。ずっとこの部屋の中で生きて来たのだから」
「……なんだって?」
――この部屋でずっと生きてきた? 十代に見えるこの少女がその人生を一度も部屋から出た事がない?
「っ! 君、名前は……」
「
「レイ、君はイマというアルビノの女の子を知らないか?」
「……知ってる」
セツナにとって思ってもみない言葉だった。それならば彼女を連れ帰れば、イマところへと行ける。そう確信してレイに近づくセツナ、しかしそこでレイは後退る。
「で、でも条件がある」
「条件?」
「話す代わりに私をここから連れ出して」
「なんだそんなことか」
きょとんとするレイ、セツナは笑う。
「そんな事は当たり前、前提条件だ。駆け引きにもなってないぞ?」
「……私を連れ去りに来たの?」
「違う、助けに来た。偶然だけど」
「信じろって?」
困ったように後ろ頭を掻くセツナは苦笑しながら言う。
「かくいう俺も無償で助けられたクチでね、仲間はみんな『お前はよく働いてくれてる』なんて言うけど、俺にとってそれは確かな救いだったんだ」
「仲間……私も、なれる?」
「ああ、俺が、俺達が歓迎する。レイ、ようこそアラハバキへ」
セツナが手を差し出す。おずおずとレイがその手を掴む。その時だった。施設の電力が復旧する。警備がなだれ込む。白い少年は真白の少女を抱え上げる。
「さあ、行こうか」
「……うん!」
青白い電流が研究施設を埋め尽くしたのだった。
『こちら生命臨界研究所! 第零番が奪われました!』
「ふむ、用なしを廃棄した途端にこのざまか。下の連中には反吐が出るな? お前もそう思うだろリキ?」
「……ああ」
「ククッ、君も随分しおらしくなった。なあ衛星監視映像を見るかい?」
リキと呼ばれた青年は興味無さそうに首を横に振る。そこに向かってタブレットを投げつける上司であろう男。それを見向きもせずに
「こいつ……は」
「ああ、『セツナ』だよ」
「……」
歯を食いしばる音が聞こえた。ギリギリ、ギリギリと歯ぎしりまでしている。
「なにか思い出したかな?」
「テメェ……ゴウラ……そんなに俺を弄んで楽しいのか」
「楽しいとも! 我が不出来な弟はどこぞでレジスタンスごっこをしていて構ってくれないんだ!」
心底楽しそうに笑うゴウラ。リキは歯噛みしたまま唸るように声を出した。
「俺はどうすればいい。こいつを殺せばいいのか?」
「いや、まだ君の動く時ではない。まずは先遣隊を送ろうじゃないか」
「まどろっこしい、全部、俺が焼き尽くしてやる」
「忌々しい記憶と共に、かい?」
そこで真っ赤な炎が部屋を照らす。リキが発火している。怒りの形相、耐えきれなくなったといった感じだ。
「『イザナギ』抑え込め」
そこに白い軍服の男女が大勢やって来る。そして見えざる力でリキを抑え込む。
「て、めぇ!!」
業炎が迸る。しかしゴウラには届かない。男は笑いながら青年を見やる。
「量産型に負ける気分はどうだい?」
「畜生! 畜生!!」
白い軍服の男女はヘルメットをかぶっていた。しかし、そこから覗く顔が全員同じに見えるのが、リキにとって最大の恐怖だった。
「こんなものが――――だと!?」
「ああ、――――へ羽ばたく―――さ」
リキはそのまま白の軍隊に抑え込まれ意識を失った。
「よし、そいつを営倉にぶち込んでおけ」
「はっ」
「さて……セツナくぅん、それに、ゴウキ、俺の軍隊相手にどう出る?」
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