4―6 初心者勇者、第一の試練に挑戦する
ミナ達の前に姿を露わにした闇神様は、コホン! と威厳正しく咳払いをした。
魔法の水晶玉に腰掛け、ふわりと宙に浮く。
「本来なら、我が姿は試練を突破せし者にしか見せないのだが……どうやらシャノなる娘には、邪な心が薄いらしい。よって、鏡の試練は中止とする」
闇神様の合図により、試練のため隔てられていたミナとシャノの壁が消滅する。
神様の前にやってきたミナは、はい! と元気に手を挙げた。
「闇神様、じゃああたし達の試練はクリアですか? パワーアップ貰えますか!?」
「それは別じゃ」
「えー」
「神たるもの、タダで力を授ける訳にはいかんのだ」
闇神様の話によると、神が試練を下す理由には”神格”と呼ばれるものが関わるらしい。
”神格”とは、神の威厳や、神に対する信仰そのものだ。
人々から恐れ敬われ、有難き存在だという畏敬こそ神の力、すなわち“神格”となる。
その神たる者が、ご近所さんを助けるようにホイホイと力を授けていては、有難みが薄れてしまう。そこで試練を貸し、苦難を乗り越えたという「有難み」が必要らしい。
「神とは存外面倒な存在なのだ。よって、そなたらには別の試練を与えようと思う」
「はい! よろしくお願いします!」
「軽いのぅ。だが、良い返事じゃ。では、第一の試練!」
すっ、と闇神様は鏡後ろの登り階段を示した。
「この『満月の塔』の、最上階まで到達するがよい」
「それだけで良いんですか?」
「うむ。だが、満月の塔を甘く見るでないぞ冒険者よ。満月の塔が初心者向けなのは、中腹まで。ここより先は厄介な闇の魔物がわんさといる。数多とひしめくゴーストの群れ、そなたらに突破できるかな?」
では、最上階で会おう。
会えたらな、と言い残して闇神様は煙のように消えた。
「よーし、みんな、頑張ろう!」
「ええ。とはいえ、ゴーストが相手となると……」
「ユルちゃん、オバケ怖いの?」
「そそ、そんなこと、ございませんわよ!?」
ユルエールはちょっとびびりながら剣を手に取った。
*
最上階へと戻った闇神様は、宵闇のローブをはためかせ「ふふふ」と威厳たっぷりに笑ったものの、すぐに考え込んでしまった。
(しまった……つい勢いで最上階までと告げたが、あやつら塔の上まで来れるのか?)
満月の塔は中腹以降、ミナ達に説明した通りゴーストやレイスといった悪霊系モンスターがひしめく魔境だ。
物理攻撃が通じにくいうえ、魔法も炎や光以外は効果が薄い。
耐性が多いというのは、それだけで冒険者殺しになる。
(しかも奴等のリーダー、銅の剣装備であったし……よもや初心者か? ちと厳しすぎたか)
これでは塔の最上階に到達できず、帰還の翼で帰されてしまうかもしれない。
その理由が「他の試練が閃かなかったから」という理由では、可愛そうだ。
(とはいえ、これも冒険の厳しさよ! うむ、わしは悪くない!)
と、闇神様はひとりうんうん頷いていると。
どーーーーーん!
と、塔が揺れた。
「な、なんじゃ!?」
巨大な振動に慌てて窓を見るが、巨大ワイバーンの襲来や、隕石魔法を撃たれた形跡もない。
「塔の中か? 何かの魔力暴走か……あやつらは大丈夫か!?」
水晶玉を取り出し、透視魔術で冒険者達を観察する闇神様。
この塔の中であれば、彼女の瞳はあらゆる場所を捕えることが可能なのだ。
やがて、ぼんやりと映し出されたのは……
強力なゴーストやレイス達が悲鳴をあげて逃げ惑う(逆の)地獄絵図であった。
「……は?」
闇神様は言葉を失う。
その間にも冒険者達はぶんぶんと武器を振り回し、廊下を駆けていく。
「ユルちゃん、そっち行ったよ!」
「おお、オバケなんて、ここ、怖くありませんことよーっ!」
騎士の女が悲鳴をあげ、目を瞑りながら剣を振る。
その一撃は物理攻撃を90パーセント近く無効化するはずのゴーストを、どごぉっ! と力任せにぶった切った挙句、(物理で)昇天させていくという意味不明なものだった。
「シャノちゃん、壁からも来たよ!」
「はい! 友達いないオバケはおうちに帰って引きこもれ! 帰るべきは墓の穴【ターンアンデット】!」
詠唱直後、白い霧がゴーストの足下より吹き上がり、一撃で消失させる。
職業【僧侶】の持つ、対ゴースト系の浄化魔法だが明らかに威力がヤバイ。
さらには、
「ふ、ファイアボール!」
ちっこい魔法使いの手から放たれた初期魔法は隕石の如く巨大な炎となり、ドゴンドゴン! と大量のゴースト達を散らした挙句、壁に衝突するたびに満月の塔が揺れていた。
(あれかーーーーー!)
そんな馬鹿な、と思う闇神様の前で、リーダーらしき女が銅の剣に光を収束させていく。
「よーし、あたしも頑張るぞー! えーと……沢山のモンスターを退治する、すごいの出てこい! 聖剣スキル【破壊神】!」
リーダーはさらに現れた大量のゴースト相手に、聖剣を振り下ろす。
聖なる光がもくもくと湯気立ち、やがて巨大化していく。
「って、ミナ、いまの何ですの!?」
「え。なんか一気に倒せるの出て来ないかなと思って……」
ミナの願いが、強力な存在という意識に繋がったのだろう。
あふれた光が中心部に鳥籠の形状を作り上げ、その周囲を白いブロックが固めていく。
やがて塔の中に巨大なゴーレムとして顕現したそれは、ゴーストもレイスも勇者達もおかまいなく攻撃し始め、塔の中で大暴れを始めたのだった。
「「「マグマゴーレムだー!」」」
どーーーん!
どーーーん!
(あれもかーーーー! って、なんじゃありゃーーー!)
塔の破壊音はさらに続き、闇神様は(あいつら、わしより強くね?)と本気で思いながら、ふと気付く。
……あいつら、何しに来たのじゃ?
闇神様は首を傾げ、このままでは自分の威厳が、神格がまずい、と眉に皺を寄せて唸り始めるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます