4―1 初心者勇者、僧侶から相談される


 クエストの合間のある日、シャノは王都の治療院でシスターのお手伝いに勤しんでいた。

「いつもありがとうね、シャノさん」

「いえいえ。私も好きでお手伝いしていますから。それに、勉強にもなりますので」

 治療院とは文字通り、病気になった人への苦痛軽減や、怪我をした冒険者への回復を行う施設だ。

 本当はシャノも【僧侶】らしく、回復魔法を使いたいのだが……

 初心者というコトもあり、普段は受付業務や薬出しをしていた。

「お邪魔します! お姉ちゃーん! ノンちゃんが怪我しちゃったの!」

「うわーーーん!」

 その受付に、子供達が泣きながらやってきた。

 シャノは「どうしましたか?」と優しく身を屈める。

 むくれ面の少年は膝をすりむき、怪我をしているようだ。

「大丈夫ですか? ええと……」

 シャノは対応できるシスターを探すが、丁度みな手が塞がっていた。

 アイテム袋へ手を伸ばすも、今日はポーションを切らしている。

「お姉ちゃん……?」

「ああ、ごめんなさい! すぐ治療しますね!」

 迷ったものの、愛用の杖を手に取り、詠唱を始めた。

 シャノの回復魔法は、本人に自覚はないものの【僧侶】としては伝説級。

 ちいさな怪我など、たちどころに治してしまえるだろう。

 ただし。

「ええと……っ、むくれ面のお餅顔、ご飯の食べ過ぎはいけません! 無駄なお肉は怪我の治療に使いなさい、【ミニヒール】!」

 シャノの体質は闇属性に特化しており、力を発言するには悪口を言わないといけない欠点がある。

 リリィの詠唱は口下手とイメージ不足が理由だが、シャノは体質だ。

 勉強でどうにかなる問題ではない。

 それでも、発動すれば効果は抜群。

 キラキラと白い光が少年に降りかかり、怪我はすぐに治療された。

 上手くいってよかった、と、ホッとするシャノ。

 が、子供達はこちらを見上げて……。

「このお姉ちゃんの呪文……なんか変!」

「お餅って言われたー!」

「イジワルー!」

「!?」



「ど、どど、どうしたの、シャノちゃん!?」

 バイトから帰宅したミナが見たのは、ずーん……と落ち込んだシャノだった。

 普段は明るい瞳もいまは気力を失い、くすんで見える。

「あの……ミナさん。ご相談があるのですが……」

 シャノは真面目な性格なので、自分からのお願い事はあまり出さない。

 だからこそ、ピンチの時は何でも聞いてあげたい!

「シャノちゃん、何でも言ってね? 美味しいお菓子をお腹いっぱい食べたいとか、ちょっと高いけど強い装備品を買いたいとか! あたし何でも手伝うから!」

「はい。では……」

 シャノは遠慮がちに、しかし、薄くきれいな眉に力を込める。

 ここまで覚悟を決めた表情を、見たことがない。

 ミナは彼女の手を取りながら、絶対に、ぜっったいに彼女の力になろうと思った。

 勇者たるもの、仲間を救ってこそ応えてこそ勇者なのだ!

「私……」

 そしてシャノは勇気を振り絞り、身を乗り出してミナに告げた。

「私、悪い人になりたいんです!」

「それはちょっと考え直そう!?」

 なんでもは無理だった。

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