幕間3 早くも始まる天才軍師メイヤーちゃんの苦労話(2)


 王国の頭脳と英知が結集する、人類の最高機関。

 王国会議。

 いつものように開かれた『勇者ちゃん一行をがんばって卒業させようクエスト』会議にて、国王陛下はいつもの挨拶を行おうとした。

「では本日の会議を始める。まずは報告を……む。メイヤー殿の姿がないが?」

「陛下。メイヤー殿は本日、初心者の館にて、勇者の動向調査を行っているとのことです」

「成程。彼女の有能さはすでに皆も知っての通り。今この瞬間も、我々には及びもつかない調査を行っているかもしれんな……」

 なお当のメイヤーは『牛恋しい病』を煩ったため一時帰宅し、うっかり戯れすぎたため遅刻したとは誰も知らない。

「まあ、メイヤー殿にも報告書は届いていよう。……それで、今回のクエスト概要は『勇者ちゃん達にクエストを装った観光を楽しんで貰い、うっかりクエストもクリアする』作戦であったな」

「はっ。完璧な計画かと思われました」

「で、このテーブルに置かれているものは何だろうか」

「伝説の【錬金術士】イグニアス=アムニアス氏の傑作、マグマゴーレムの核でございます」

「そうはならんだろ!」

 王様はテーブルに手刀をツッコミ、家臣達に体調を心配されていた。

「今回のクエストは普通に観光して、普通にスタンプ押してご褒美貰えて万々歳であろう。どこにトラブルの原因があった!? というか、ワシが行きたかったわ! お餅に鍾乳洞観光に温泉旅行! 完璧すぎる!」

「陛下が向かわれては一般業務に支障が……ただでさえ我が国は、王国会議に全リソースの四割を費やしておりますので」

「その間に勇者ちゃん達は温泉……むうぅ、羨ましい」

 不機嫌な王様。

 そんな空気を変えようとしてか、大臣のひとりが席を立ち、マグマゴーレムの核を手に取った。

「それにしても、ゴーレムの核とは見事な一品ですな。数百年も昔のものが、いまも動くとは」

「あ。それに触れては……」

 核を手にしたのは、偶然にも王国にて魔法教育を行う大臣であった。

 仮にも王国直属の魔術師、魔力はそれなりにある。

 そしてマグマゴーレムの真骨頂は、魔力を”食べる”ことで再稼働できる耐久性にある。


 復活した。


「ゴーレムだーーー!」

「しまったーーー!」

「陛下、陛下をお守りしろーー!」

 そこに遅刻してきたのは、天才軍師メイヤーである。

「すみません、遅くなりました! 牛さんが可愛くて、つい……あれ?」

 メイヤーが見たのは、円卓の中央で暴れるマグマゴーレムと、逃げ惑う国王達であった。

 さすがに混乱したものの、メイヤーはすぐに、マグマゴーレムが微々たる魔力で起動したことに気づく。

 ゴーレムの弱点は、核への物理攻撃だ。

 彼女は初心者の館で主席を取った、成績優秀な冒険者の卵である。

 懐から、えいっ、とサバイバルナイフを飛ばし、ゴーレムの核を貫いて停止させる。

「あの。どうかしましたか……?」

 そしてメイヤーが小首を傾げると、会議中から大歓声を浴びたのであった。

「あの恐るべきゴーレムを一撃で!」

「頭脳だけでなく実力も備えているとは!」

「さすが我が国の未来を担う人物……まさに、格が違う……」

(なんかまた誤解されてるんですけど!?)

 メイヤーの見立てでは、ゴーレムに含まれた魔力は微々たるものだった。

 あと10秒もすれば、稼働停止していたはず。

 瀕死のモンスターにうっかりトドメを刺したら、棚ぼたで英雄扱いされた気分である。



 荒れた会議室がパタパタと片付けられ、椅子を進められたメイヤーには慰労のため高級な菓子やら紅茶やら運ばれてきた。

 どうしたものか困っている間に、コホン、と国王陛下が場を整えるように咳払いをする。

 ……なんかいやな予感がする。

「会議の場にいる諸君等も、いまの一件で改めて、メイヤー殿の実力を理解したであろう」

(違うんだけどなぁ~!)

「そこで次回クエストについてだが、是非ともメイヤー殿。そなたにメインクエスト作成をお願いしたい」

「えぇ……」

「そなたの知恵と勇気をもって、あの恐るべき勇者ちゃん達を卒業させて欲しいのだ」

 今までいくつか助言はしたものの、クエスト作成の主役を任されたのは初めてだ。

 これは不味い。

 メイヤーは現実から目を逸らしたくなり、一度は落ち込んだものの。

(でも……主役ってことは、失敗したら、お祓い箱の可能性も高くなる……もしかして、逆転のチャンスかも? 勇者さん達のクエスト失敗確率は、スキル【トラブルエンカウンター】の効果で100パーセント。私がどんなクエストを出しても、絶対に失敗する。なら……)

 逆境は、チャンスでもある。

 メイヤーはいかにも緊張した風を装い、神妙に頷いた。

「分かりました。では私、メイヤー=リノ。神妙に受けさせて頂きます!」

「おお。ついに天才軍師殿が動かれるぞ」

「次は……もしかすると、もしかするかもしれない……!」

 期待にどよめく会議室を前に、メイヤーは顔を伏せて笑みを浮かべる。

(クエスト内容は、いかに私の無能さを理解してもらうか……これは私に与えられた試練。私が野に帰り、牛さんと戯れるための、最後の試練……!)

「見よ。メイヤー殿が……」

「武者震いをされておる!」

「よほど恐ろしい計画を立てているに違いない……!」

 陛下とその幹部がざわめき、ふふふふふ、とメイヤーは悪魔の笑みを浮かべる。

(私、このクエストが終わったら、実家で牛さんと戯れるんだ……)

 その目論見を正確に知るものは、彼女以外には誰もいないのであった。

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