3―8 初心者勇者、マグマゴーレムと戦う(下)


 巨体のマグマゴーレムが、ミナ達目掛けて岩の拳を振り下ろす。

 それを合図に、シャノがリリィを伴いゴーレムの裏側へと走り抜ける。

 相手の動きはミナ達から見れば遅く、軽々と避けれるほど。

 それでも念を入れ、シャノが防御魔法を展開する。

「肩こりしそうなゴーレムさん、ゴツゴツ拳は削って柔らかくしないと怖いです! そんな拳は届きません! 【ミニマムプロテクション】!」

 杖がないためこちらも威力は半減以下だが、個人用の守護としては十分だ。

「うう、私の詠唱も改善したい……!」

 ゴーレムの脇をすり抜け、ミナ達の対角線に並ぶシャノ達。

 リリィがすかさず魔法を放つ。

「ファイアボール!」

 十八番の火炎魔法。

 マグマゴーレムの核に当てると吸収されてしまうが、外郭の岩石部分であれば、炎耐性があってもぐらつかせる程度の威力はある。

 それをチマチマと撃たれれば、炎無効のマグマゴーレムとて無視できない。

 生命のない怪物が、リリィ達へと向きなおる。

 ミナ達に、背を向けてしまう。

「隙あり! 聖剣……えーと、動きを止めるには……【雷の麻痺攻撃】!」

 ミナが飛び上がり、それっぽい魔力を載せて銅の剣を振り抜いた。

 空気を切り裂く電撃がゴーレムの背中へと迫り、そしてパチン、と弾けて消滅した。

「あれ。効いてない?」

 感電により痺れさせる予定だったが、ミナの「それっぽい雷」は威力がさほど出ず、また雷が魔力吸収するゴーレム核へと届いたせいで吸い込まれてしまったのだ。

「ち、ちょっと待ってねリリィちゃん! 動きを止める、止める……んー!」

 雷系の麻痺は効果がなく、しびれ毒も岩石ボディには効かなそう。

 混乱、魅了、恐怖などの精神攻撃も岩石系モンスターには効果が薄い、って初心者の館で勉強した。

 となると。

「えーと、足を壊す? でもすぐ復活するし、頭……ううん、身体を縛って止める……そうだ!」

 ミナはニヤっと笑って、銅の剣を懐に添えた。

「聖剣スキル! 伸びろ、そしてもちもち捕まえろ! 【お餅もちもち】アターーック!」

 閃いた理由はまさに『お土産屋でお餅がもちもち美味しかったから』。

 突き出した銅の剣より、ぐにょーんと伸びた白いおもち魔力が、オバケのようにゴーレムの両腕をがっちりと掴んだ。

 魔法耐性のあるマグマゴーレムも、お餅は設計外だったのだろう。

 両腕を拘束されたゴーレムの動きが、ぴたりと止まった。

 おまけで具現化したきな粉が舞い上がり、マグマゴーレムの視界を遮る。

 よし、とミナが喜んだその時、ゴーレムから赤い光が放たれた。

 緊急時の防御反応、全方位への熱攻撃。

 じりっ、とミナの肌にまで熱が届き、なにやら甘い香りが漂ってきた。

「なんかいい香りがする! シャノちゃん、これ大丈夫!? 爆発しない!?」

「大丈夫です、お餅がちりちり焼けてるいい匂いがしてるだけです!」

「よーし、なら、お餅追加! それでクエスト終わったら、みんなでお土産を食べようね!」

 ミナが再度、銅の剣からお餅型拘束魔力をうにょうにょと伸ばし、敵の足まで拘束する。

 状態異常『鳥餅』に陥り、もだえるゴーレムの隙を逃すほど、ユルエールは甘くない。

「ミナ、行きますわよ!」

「うん、作成通りにね!」

 トン、と地を蹴り、ユルエールが空に舞った。

 その両腕に、渾身の力を込める。

「いきますわよ! わたくしの全力……通常攻撃!」

 ユルエールはしっかりと敵を見据え、剣を片手に全力で飛び込んだ。

 確実に当てる。

 絶対に当てる。

 その気概で放った、必殺の通常攻撃はーー

 もちろん命中しない。

 彼女はどんなに巨大な相手でも、目測を誤るのだ。

「せやぁーっ!」

 掛け声とともに、すかっ、と宙を切るユルエールの一撃。

 ――でもそれは、予定通り。

「わたくしは騎士ですもの! 剣は使えなくとも、期待に応えてこそ真の騎士ですわー!」

 彼女は外した剣を、空中で放棄。

 そのまま全身をひねり、右拳をしっかりと握りしめて。

「くらいなさい! わたくしの……体当たりパンチ!」

 自らの身体ごと突撃するように、マグマゴーレムに突撃した。

 剣が当たらないなら、ぶん殴ればいいじゃない。

 右拳を握りしめ、グーパンで、マグマゴーレムの核へと叩きつけるユルエール。

「せやぁーーーーっ!」

 本来ならあり得ない一撃だが、彼女のステータスはLV99。

 命中さえすれば、物理攻撃において仲間の誰よりも強力な一撃、神をも殺す鉄槌。

 その証とばかりに物理耐性を持つはずのマグマゴーレムの核に、ぴしり、と亀裂が走り。

 僅かなひび割れはやがて蜘蛛の巣のように広がり、ガラスが砕けるように魔法生物の核は砕け、その機能を停止した。

「やったー!」

「やればできる。さすが、わたくしですわ!」

 崩れ落ちるゴーレムのボディから飛び出し、華麗に着地するユルエール。

 ふっ、と笑う彼女の手には、愛用の鎧やアイテム袋と一緒に、ゴーレムの小さな核が握られている。

 六角形のクリスタルの形をしたそれは、よく見れば観光ツアーのスタンプラリーで見た、騎士の証に似ていてた。

「おおー……ユルちゃん。それ、本物?」

「ええ。わたくしが手にした、本物の証ですわ」

 ユルエールが誇るように、騎士の証(本物)を掲げる。

「これで完全勝利ですわ。あなた達のお陰です、ミナ」

 ゴーレムが崩れ落ちるなか、ユルエールは勝利の喜びに笑みを浮かべる。

 今度こそ本物の『騎士の証』を入手したその微笑みは、何よりも眩しく、明るいものだった。

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