3―7 初心者勇者、マグマゴーレムと戦う(上)
ミナがユルエールを励ましながら進んでいくと、ようやく洞窟の切れ端が見え始めた。
そこは火口に近い大広間で、足下は焼けた砂浜のような熱を持つ。
熱耐性の装備品なしではダメージを受けるはずだが、ミナ達は持ち前の体力のせいで「ちょっと熱いな〜」程度だ。
「そういえばさ、なんであのゴーレム達、装備品を盗んだんだろうね、ユルちゃん」
「そう言われますと、変ですわね。ドラゴンには収集癖があると聞きましたけど……あ!」
雑談を始めたその時、ついに敵と対面した。
広間の中央に装備品を抱えてうずくまる、ゴーレム達。
剣を構えるが、ゴーレムはぴくりとも動かない。
「何かヘンじゃない?」
「そうですわね。あんなところに集まって、何をして……」
ぴくっ、とリリィが反応した。
「……危険」
ぐらりと大地が揺れた。
ミナがバランスを取る前で、ゴーレム達が囲っていたものが露わになる。
鉄籠だ。
籠の中にはユルエールの鎧やリリィのロッドが収められ、籠の天井部には紅色の宝石が収められている。
あの宝石が本体だ、とミナの直感が働いた直後、周囲のミニゴーレム達がばらばらと崩れていく。
ただの岩石となったゴーレムの破片が魔力で浮かび、ミナ達の前で合体して大きな人型へと変形。
「お、おお? ……あ! 見たことある!」
ミナが指さした巨大なモンスター。
それは、ケルミナ火山観光地で見上げた、マグマゴーレムにそっくりであった。
【錬金術士】イグニアス=アムニアスの傑作、マグマゴーレム。
かの魔法生命体がもつ最大の特徴は、魔力を検知し”食べる”ことで幾らでも復活できる、永続的な耐久性にある。
普段は自らの子機であるミニゴーレム達を徘徊させ、温泉の水や魔力を含むモンスターなどを収集して機能を維持していた魔物はその日、特別な魔力を検知した。
豊富な魔力が含まれた装備品。
レベル99の勇者達という強大な魔力源。
ミニゴーレム達は即座に装備を回収しつつ、追いかけてきたミナ達をあえて誘い込み、自ら”食べる”べく姿を露わにしたのだ。
前回のサーペントナーガより小型なものの、それでもミナ達の四倍近くはあり、魔法鉱石でコーティングされた体躯はめちゃくちゃ硬そうだ。
そのうえ、ミナ達には装備が少ない。
が、アイテムを取り戻すには敵を倒すしかない。
「よーしみんな、モンスターを倒してアイテムを取り返そう! それに、倒したら騎士の証が手に入るかも! ということで先制攻撃! 聖剣スキル【物干し竿】!」
ミナの剣先から光が走り、その一撃は魔法防御を施したゴーレムの装甲をあっさり砕く。
が、足元からミニゴーレムが飛び出し、腕のパーツとして再生した。
「すごい、合体して復活した! ……うーん、どうしよう?」
「ふ、ファイアボール!」
続けてリリィお得意の火炎魔法。
装備品のロッドがないぶん威力は半分以下だが、それでも強力な炎がゴーレムを襲い――
するりと、中央の鉄籠へと飲み込まれる。
マグマゴーレムは炎耐性だけでなく、魔力を吸収する力を持つのだ。
「リリィちゃんの炎が食べられちゃった!」
慌てるミナ目掛けて、ゴーレムの高速パンチが迫る。
ミナはひょいと避けたものの、ダメージが通らないのは困る。
「うーん。あのゴーレム、攻撃はそうでもないけど防御力と再生力が高いね。リリィちゃん、弱点わかる?」
「ん。……中央の宝石に、物理攻撃」
「あたしの聖剣スキル攻撃じゃダメ?」
「聖剣スキルも魔力だから……炎じゃなくても、魔力は吸収される、かも」
「となると……」
全員がそっと、ユルエールを見る。
彼女は唯一パーティ内で魔力系スキルを使わない、近接戦と物理攻撃の使い手だ。
「わ、わたくしですの!? でも鎧がないと……いえ、でも」
ユルエールは歯を食いしばる。
その頬をパチンと叩き、気合いを入れ、自らの剣を手に構えた。
「できますわ。ここで甘えていては、わたくしも成長できませんもの。それに、一発当てると話しましたものね」
「うん、その調子だよユルちゃん!」
「ええ! ……ただ、わたくし一人では攻撃が当たりませんから、作戦を立てて頂けますこと?」
「了解!」
肝は、ユルエールの攻撃をいかに敵の核へと命中させるか。
一撃当てることができれば、ゴーレムを沈黙させるのは容易いだろう。
ミナはそれ位、彼女の攻撃力に信頼を置いている。
「じゃあ今回の作成名は、ユルちゃんの攻撃絶対当てよう大作戦。ゴーレムは足が遅いから、その隙をついて、ユルちゃんが攻撃を当てれるチャンスを掴もう!」
そしてミナは全員に指令を伝え、マグマゴーレム攻略戦を開始した。
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