3―5 初心者勇者、騎士の秘密を知る(上)


 異変に気付いたのは、リリィだった。

「……?」

 温泉の真ん中から、ふしぎな泡が吹いている。

 そのうち足下から『ゴゴゴゴゴ……』という妙な音がして、ミナ達もさすがに気づく。

「ねえ。なんか温泉の下から聞こえない?」

 何事かなと、全員で温泉の中心に集まると。

 温泉がいきなり、水蒸気のように爆発した。

「「「!?」」」

 水しぶきを上げて登場したのは、小さな鉱石を固めた、膝丈程度の人型兵器。

 赤い魔法生物ミニゴーレムだ。

「わわっ。モンスター?」

「足下から!? すいません、下には結界を張っていませんでした……!」

 慌てて戦闘態勢に入ろうとして、すぐに剣がないことに気づく。

「しまった、武器置いてきちゃっ……勇者パンチ!」

 ミナのとっさの一撃により、ミニゴーレムは粉砕される。

 やった、と喜ぶミナであったが、その時には温泉のあちこちからミニゴーレムが現れて……

 ミナ達に目もくれず、温泉の外にがちゃがちゃと走っていった。

「あれ? 襲ってこな……」

「あーーーっ! わ、わたくしの鎧がーーーー!」

 ユルエールの悲鳴とともにミナ達が見たのは、ミニゴーレム達がユルエールの鎧を担いで別の穴にもぐる姿だった。

 さらにはリリィのロッドやシャノの杖、ミナ達の服なども、全部!

「あ、こら! アイテム泥棒! 装備品泥棒!」

「追いかけましょう、ミナさん!」

「うん! みんな何か巻くものある!?」

「ち、小さいタオルなら……」

 温泉上がりに使うタオルを身に撒いて、ミナ達は慌てて走り出した。


 ミニゴーレム達を追いかけて見つけたのは、火山の内部にぽっかりと開いた洞窟だった。

 そこは一般に知られていない火山迷宮なのだが、ミナ達は知らずに入っていく。

「みんな、帰還の翼はつけてるよね? あと、装備品はどれくらい取り戻したかな?」

 ミナ達は道中で複数に別れたミニゴーレムをひっ捕まえ、いくつか装備品を取り戻していた。

 まずはミナ愛用の、銅の剣。

 ユルエールの扱う鉄の剣。

 それと、リリィが薬草実験のため温泉に持ち込んだアイテム袋だ。

「リリィちゃん、アイテム袋は何があるかな」

「ん……お菓子と、攻撃アイテムが少し……」

「非常食はバッチリだね! じゃあ残りを取り返しにいこう! でも、リリィちゃんとシャノちゃんは杖がないから後ろをお願い! あたしが前に出るよ!」

 洞窟内は比較的せまく、前衛がいれば攻撃を防げそうだ。

 ミナ達は慎重に進む。

 やがて現れたのは狼型モンスター、ファイアウルフだった。

 以前戦ったアイスウルフの炎版で、そこそこの強敵である。

「でも今回は大丈夫! 聖剣スキル、物干し――」

「待ってください、ミナさん! 狭い洞窟でミナさんのスキルを使うと、崩落してしまうかも」

「あっ。……じゃあ、通常攻撃!」

 ぶん、と剣を振ったミナだが、勢い余って魔力が零れてしまい、モンスターは倒したものの余波で洞窟にヒビが走る。

 あっ、と声をあげるミナ。

 ミナのスキルや通常攻撃は火力があるが、ここでは威力が強すぎるらしい。

「うーん……じゃあ、ユルちゃんお願い。騎士の近接戦で、敵をバッサリだよ!」

「ふぇっ!?」

「……ふぇ?」

「い、いえ何でもありませんわ。わ、わたくしが前衛ですのね当然ですわ!」

 なぜかリリィの背に隠れていたユルエールが、前へと躍り出る。

 剣を構えるその姿は、なぜか妙にへっぴり腰だ。

 そこに再び現れる、ファイアウルフ。

 ユルエールは敵が身構えるよりも早く隣接し、剣を振り抜いた。

「せやぁーーーっ!」

 そして洞窟の壁をぶっ叩いた。

 九十度くらい直角にまがった剣技はもちろん命中せず、しかし威力はあったらしく洞窟の壁が激しく崩れる。

 ファイアウルフたちが、びくっ! と震えた。

「ユルちゃん?」

「……ち、違うのですわ! 今のは準備運動! さあ行きますわよ!」

 ふたたびユルエールが飛びかかり、ゴスッ! と物凄い音がして地面が砕ける。

「???」

「い、今のは準備運動後の準備運動です! 待たせましたわね!」

 とは言うものの、ユルエールはもぐら叩きのようにどっかんどっかん壁を叩くのみ。

 一応、威嚇にはなったらしくファイアウルフ達は逃走していった。

 土煙を払いながら、頬を泥ですすけさせたユルエールが汗をぬぐい、ミナに笑う。

「ふっ。わたくしの恐ろしさに、身を弁えて逃げたようですわね」

「そ……そうなの?」

「ええ。この調子でわたくしに任せて頂ければ、この程度のモンスターなんて」

「あ、ファイアスライム」

 びくっ、と反応したユルエールが慌てて剣を手に取る。

 その一撃はやっぱり地面を砕き、スライムにはあたらず、ただし地を叩いた衝撃の爆風でスライムはころころと飛んでいった。

 さすがに何か変だなぁとミナも思い、やがて気づく。

「……もしかして、湯あたりした、とか?」

「ユルエールさん、体調悪いのですか? なのに、私達のために無理をして……?」

 ミナはユルエールのことが心配になり、それを見たシャノも不安そうに眉を寄せ、リリィも心配げにどうしようどうしようと慌て始めるのだった。

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