3―3 初心者勇者、真なる騎士の証を知る
「また会ったわね、勇者ミナとその一行! アタシの名はヴェリル=カノン! 混沌の導き手にして……」
「お仕事お疲れさま、ヴェリルちゃん。バイトは休憩中? あ、この前はごめんね、クエストの湖を消しちゃって……代わりに温泉卵あげるね」
「ナチュラルに挨拶するのやめてくんない!? アタシ達は敵同士なんだからね!?」
いつもの軽装に戻ったヴェリルが指をつきつける。
ちなみに彼女を待っていた理由は、ミナが先日の湖爆破事件をきちんと謝るためだ。
正式に頭を下げると、ヴェリルは「いやまあ、アタシ一人でクリアできた訳でもないし……助けてもらったし」ごにょごにょと呟いたのち、水に流しましょうと手打ちにしてくれた。
「ていうかアンタ達、クエストどうしたのよ」
「これが今回のクエストだよ? 騎士の証を持ってきて、って」
「本当だったの? またヘンなクエストを受けたわね」
「えへへー。でも、これでクリアなの。今回こそ完璧だよ!」
内容はさておき、目的は達成した。
初のクエストクリアである。
ふふん♪ と鼻歌交じりに自慢するミナ。
「……なんか腹立つわね。人がバイト中に遊び呆けて……」
と、ヴェリルの顔にニヤリ、と悪い笑顔が浮かんだ。
「ねえ、勇者ミナとその一行。アナタ達……本当にそれでクリアだと思ってるの?」
「ん?」
「アナタ達が受けるクエストは初心者向きとはいえ、一応正規のクエストよ。なのに、ただ火山を観光してスタンプを集めただけで、本当にクリア扱いになるのかしら?」
「うっ」
「温泉卵に甘~いお餅に、楽しく観光してクエストクリア? 羨ましい……じゃなかった、アンタ達、本当にそれでいいの?」
ヴェリルの指摘は、ミナ達も気になっていた点である。
初心者向けとはいえ、モンスターとの戦闘一つなくても良いのか。
それで冒険と言えるだろうか?
四人の不安を読み取ったヴェリルが、そっと山岳の向こうにある火山を示す。
「じつはね。このケルミナ火山にはもう一つ、本物の『騎士の証』が隠されている噂があるのよ」
「え?」
「あら、知らないの? ケルミナ火山には別名、双子火山という愛称があって、もう片方の火山の方にはその昔に隠された、本物の騎士の証が眠っているそうよ」
「「「えええええっ!?」」」
衝撃を受けるミナ達。
ヴェリルはわざとらしく腕を組み、ニヤニヤとミナ達に笑ってみせる。
「いいのかしらねー。初心者の館の冒険者見習いが、きちんとクエストについて調べもせず、お土産気分で証を持って帰っても。本物の証がある火山には、秘密の秘湯とか火山迷宮とか色々あるのになー」
「秘湯!? 迷宮!?」
「とくに秘湯には不思議な秘密があるって有名よ。勇者なら一度は入っておくべきじゃない?」
「い、行きたい……シャノちゃん、どうかな!?」
「ミナさん。私もいま、改めてクエスト票を見返したのですが……」
シャノの提案により、全員でクエスト条件を確認する。
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内容:ケルミナ火山にあると言われる『騎士の証』を手に入れ、初心者の館に納品しよう。『騎士の証』がどのようなものであるかは、現地にて情報収集すること! がんばってね!
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「見てください。『騎士の証』が何かは現地で情報収集して、と書いてあります。スタンプを集めたお土産である、とは書かれていません!」
「おお……! ということは」
ミナ達は真実に到達した。
「美味しかったもちもちお餅も」
「わたくしのお土産の木刀も」
「……(温泉卵も)」
「私達のこれまでの行いは、ぜんぶ間違っていたんですね……!」
「アンタ達それニセモノとか関係なく疑うべきじゃない!?」
呆れるヴェリルであったが、真実に気づいたミナ達の行動は早かった。
「みんな、真の証を取りに行こう! ね、シャノちゃん!」
ミナは意気揚々と声をかけ、シャノももちろん同意する。
リリィはミナが行くなら、どこでもついてくタイプである。
そして当然、騎士の証といえばユルエール。
「ユルちゃん、行こう!」
「う……そ……そうですわね……でも、火山帯の迷宮……」
「?」
「な、なんでもありませんわ! さあ行きますわよ!」
「うん! あ、でもユルちゃん、やっぱり鎧は脱いだ方が」
「その必要はございませんわ! これはわたくし愛用の鎧。それに今回のために、耐熱アイテムも調えましたし!」
ユルエールはなぜか慌てつつも、こうしてミナは仲間達を引き連れ、真の騎士の証が眠るという火山をめざして歩き始めたのだった。
*
もちろん嘘である。
真の証など存在しないし、火山洞窟も天然の秘湯も存在しない。
ただゴツゴツした岩場が並び、モンスターが生息するだけの山である。
(愚かなことね、勇者ミナとその一行! アタシが有益な情報をタダで教えるはずないじゃない! これで勇者に一矢報いてやったし、クエスト失敗も間違いないわ。大体アタシがバイト中に、アイツラだけ遊び呆けてるのも腹立つし……!)
己の計算高さに、つい高笑いしてしまうヴェリルであった。
「これで、アタシの怖さを再認識するがいいわ。ふふふ……あーっはっはっはっは!」
「お嬢ちゃん、スタンプお願い」
「はい畏まりました、こちらへどうぞー!」
ヴェリルは、仕事へのプロ意識はバッチリだった。
そして、ヴェリルはすっかり忘れていた。
職業【勇者】の持つスキル【トラブルエンカウンター】はあらゆる確率を粉砕し、運命を引き寄せる。
ミナ達は傾斜七十度くらいある山岳地帯をテクテクと昇った結果、迷子になり。
モンスターを倒して進んだ先にて、ヴェリルが出任せで口にした、天然の秘湯を本当に見つけてしまったのである。
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