3―2 初心者勇者、火山クエスト攻略みたいなものを始める


 ケルミナ火山。

 魔王が存在した古の時代、天才【錬金術士】イグニアス=アムニアスの手により作成された魔法生命体マグマゴーレムが大暴れし、伝説の騎士との死闘を繰り広げた地として有名である。

 冒険者録を紐解けば、その多くに高難度の印がずらりと並んだことだろう。

 火山に住まうモンスターは軒並み強く、多くの冒険者が帰還の翼で送り返されたのは有名な話だ。

「リリィちゃん。ケルミナ火山って、馬車でも山の入口手前までしか行けないんだって……きっと山の手前から強いモンスターが出るんだよ。しっかり準備しないとね!」

 否が応でも緊張するミナ達。

 果たして、火山にある迷宮とはどんな所なのか。

 ドキドキしながら、ついに恐るべき地に到着し、ミナ達が見たものは……。

「いらっしゃいませー! ようこそケルミナ火山へ! お土産商店街はここをまっすぐ! ケルミナ鍾乳洞への観光入口はその終点にございます。入場料はお一人300ベルクとなっております」

 でかでかと木彫りのアーチが組まれ『ようこそケルミナ火山へ』と書かれた商店街入口、そして居並ぶ名物お土産店だった。

「「「観光地になってる!!!」」」



 最初はびっくりしたミナ達だが、聞けば火山でうっかり温泉が発掘されてしまったらしい。

 ほうほうと目を輝かせ、ミナ達はさっそく情報収集。

「すいません。あたし達、ここで『騎士の証』を手に入れてと言われたんですけど……」

「騎士の証ですね? ではこちらの観光名所をめぐり、六カ所のスタンプを集めることで、お土産として頂けます」

「「「スタンプラリー!!!」」」

 ミナ達はパンフレットとスタンプカードを頂いた。

「あの。ここの観光中に、迷宮攻略してモンスターと戦ったり、罠があったりは……」

「そのような危険は一切ございません。結界に守られているので、安心してスタンプを集めてきてください!」

「えーと……こう……火山迷宮大攻略とか」

「ありません! 絶対に迷わない親切設計です!」

「……こう……大型モンスターとの戦闘とか」

「ありません! 温泉での火傷にだけはご注意下さい!」

 それはそれで冒険者的にどうだろう? と首を傾げるミナとリリィとシャノだったが、

「ふっ。では、真の騎士をめざしてスタンプを集めましょう」

「なんかユルちゃんが元気になった!?」

 まあユルエールが元気になったなら良いか、と思うミナであった。


 何はともあれ、クエストはクエスト。

 スタンプラリーの地を巡りながら、ぶらりと温泉街を歩いていく。

 鍾乳洞へと続く一本道は、右を見ても左を見てもお土産屋に食事処が並び、テクテク歩いているだけでも炊きたてのお米の香りや、香ばしい茶葉がふわりと鼻先をくすぐってくる。

 もちろん一流冒険者たるもの、誘惑に負けることはないだろう。

 彼女達は大いなる使命を帯びた、伝説の勇者一行なのだから!

「わわ、見て見てリリィちゃん! 美味しいお餅どうぞ、だって! お餅って何?」

「えっと……もちもちした食べ物……?」

「リリィちゃんのほっぺたみたいな? あ、一庫ください!」

 一流には程遠かったミナ達は、瞳をぱあっと瞬かせて幸せを頬張りはじめた。

 途端にもちもちした食感が舌の上で転がり、さらに振りかけられた黄色の粉が独特の苦味のような甘いような味付けを醸し出す。ほっぺが落ちそうだ。

「リリィちゃん、これ美味しい! この粉みたいなの何?」

「ん。……きな粉。大豆を挽いて作った粉。牛乳に混ぜて飲んだり……。ミナ、頬に粉がついてる」

「あっ。……えへへ」

 恥ずかしがりながら、ハンカチで口元をぬぐうミナ。

「あの、ミナさん。リリィさん。一応クエスト中ですので、あまり気を抜くのは……」

 遠慮がちに告げるシャノに、リリィがそっとお裾分けのお餅を差し出した。

「ぅ……」

「……美味しいから、シャノにも。あと、お餅買ったらスタンプ貰えた」

「クエスト関係あったんですね……なら……」

 攻略のためなら、道中で食べても問題無い。

 これは遊びではないのだ。

 それに、リリィの好意を断るのも気が引ける。

 シャノはそーっと、差し出されたお餅を、ぱくっ、と口にする。

 途端にどっしりと広がる餡子の甘味。

「……美味しい……あ、あの……もう一個……はっ」

 みんなから幸せそうに微笑まれてるのに気付き、シャノは思わず赤面しながら「……もう一個」と、お餅をお代わりするのであった。


 そんな調子で、ミナ達は順調にスタンプを集めていった。

 温泉には入らなかったものの温泉卵はしっかり頂き、的当て矢に参加してスタンプを貰い、ケルミナ火山の名物、着ぐるみのマグマちゃんと挨拶をした。

「ミナ、シャノ、ここのお店すごいですわね、真の騎士の装備品がこんなに!」

 買い物に向かったユルエールは、うっかり出店できらきら光る玩具の魔法木刀を買ってしまう有様だ。

 そして最後に訪れたのは、観光地のメインとなるケルミナ鍾乳洞。

 かつて迷宮だった道は石畳で舗装され、壁のあちこちにモンスターを象った石像が並べられている。

 四人が感心しながら到着した先「おおー!」と声をあげたのは、鍾乳洞のメイン展示物である巨大なゴーレムの石像だ。

 ブロックを固めて人型に組み立てた、ミナ達の四倍近いその石像は、今にもパンチをしてきそうな迫力がある。

 解説書を読むと、マグマゴーレムに炎は無効らしい。

「リリィちゃんは炎魔法が得意だから天敵だね」

「ん……ちょっと心配」

「大丈夫、その時はあたしが守るから! ね、ユルちゃん」

「ええ。わたくしは【騎士】ですもの、前衛に立ってこそ意味がありますわ!」

 石像の前でポーズを取るミナとユルエール。

 そのマグマゴーレム石像の指先が最後のスタンプになっており、ぺちっと押して完了だ。

「やったー! あとは交換所で『騎士の証』と交換だね、ユルちゃん!」

「今回は簡単でしたわね!」

 本当にトラブルもなく終わり、今度こそクエストクリアだ。

 完璧!

 と、ミナ達が意気揚々とスタンプ交換所へと向かうと。

「いらっしゃいませ、こちらスタンプ交換所になりまーす!」

 見覚えのある褐色肌で長耳の少女が、エプロン姿でバイトに精を出していた。

「あ、ヴェリルちゃん」

「またアンタ達なの!? 勇者スキル仕事しなくていいから!」

 お客さん向けの笑顔を浮かべていたエプロン姿のヴェリルが地に戻り、ふてくされたようにミナ達を睨む。

「で? アンタ達、今回はなにしてるの」

 ヴェリルが見たのは……

 お土産の温泉卵をかかえたミナに、キラキラ輝く木刀をしたユルエール。

 温泉薬草を手にしたリリィに、お餅をもう一つこっそり買ったシャノ。

 ミナは堂々と宣言した。

「クエスト中だよ。これは真の騎士への試練だよ!」

「嘘をつくなーーー! どう見ても遊んでるじゃないの!」

 ヴェリルに突っ込まれ、事実なのに、なぜか言い訳できない四人であった。

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