3―1 初心者勇者、真の騎士をめざす仲間のためにがんばる
ミナ達の生活は、毎日クエストに出ずっぱりという訳ではない。
初心者の館で勉強する日もあれば、アルバイトに精を出す時もある。
今日のミナは実家に顔を出し、両親と挨拶をした帰り道であった。
(あんまり、お母さんを心配させないようにしないとなぁ)
ミナの母親はおおらかなので「勇者になるって本当に大変なのね~!」と笑ってくれてるが、本当は心配してるに違いない。
早く一人前の冒険者になって、本格的なクエストを攻略したいなと思う。
本物の竜退治とか。
本物のヒュドラとか。
そしてお母さんを心配させないくらい、沢山の宝物と、冒険物語を持って帰るのだ。
「よーし。明日のクエストも頑張ろう!」
ふんふんと気合いを入れながら、ミナが宿舎に帰ってくる。
すると……
ユルエールが頬杖をつき、溜息を零していた。
「はぁ……どうしましょう……」
「?」
帰宅したミナに気付かず、ユルエールは物思いに耽っている。
「実家から帰宅してから、あんな感じなんです。お兄様が立派な勲章を貰ったらしく、それを見たユルエールさんが、自分は立派な騎士になれるかちょっと悩んでるみたいで」
シャノに耳打ちされ、ミナはふと、ユルエールの実家がお偉い騎士の家系だと思い出した。
祖父母ともに高名な騎士であり、さらには両親もお兄さんも、現王国に勤める騎士。
ついでにペットの犬まで騎士犬を勤める、筋金入りの家系である。
ミナの母親みたく「勇者いいじゃなーい、頑張ってね!」みたいなノリでなく、もしかしたら「騎士になれないお前は追放だ!」とか言われてるのかも。
(……はっ! というか、クエストをクリアできないのは半分あたしのせい!? ううっ、次のクエスト頑張らないと……)
せっかくなら、ユルエールが大活躍できるクエストが良いだろう。
騎士の誇りにかけて、彼女が輝けそうなもの。
「よーし。シャノちゃん、次のクエストは、ユルちゃんが活躍できるようなクエストにしよう!」
「はい?」
そして翌日、ミナは初心者の館からクエストを貰ってきた。
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クエスト:ケルミナ火山にて騎士の証を入手せよ!
内容:ケルミナ火山にある『騎士の証』を手に入れ、初心者の館に納品しよう。『騎士の証』がどのようなものかは、現地にて情報収集すること! がんばってね!
報酬:3000ベルク
期日:7日
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「ユルちゃん見て見て、次回クエスト貰ってきたよ! 騎士の証クエスト! ロジーナさんにね、騎士っぽいクエストありますかって聞いたら、丁度いいのがあったよ!」
「騎士の証?」
「うん! これをクリアすれば、ユルちゃんも立派な騎士に……」
「……ミナ。火山クエストは……高難度のことが多い。大丈夫?」
「え!?」
ひょっこり顔を出したリリィの指摘通り、火山系クエストは難易度が高めなのが通説だ。
気候が厳しいうえ生息モンスターが強く、専用装備が必要なこともある。
ミナは思わず、やってしまったか!? と焦る。
初心者用クエストも千差万別、中には難しいものもあるだろう。
それを、未だ一つのクエストもクリアできていない自分たちが、本当に攻略できるのか。
「ぅ……でも……ちょっとくらい難しい方が、自信になるよ!」
迷ったミナだが、ユルエールに自信を取り戻して貰うには、手強いものに挑戦した方がいいと思ったのだ。
「ユルちゃん。頑張って立派な【騎士】を目指そう! うん!」
「……わたくしで大丈夫でしょうか」
珍しく弱気なユルエールに、ミナはぐっと拳を握り、元気をみせた。
「いけるいける! ユルちゃんすごいもん! あたし達のことも何回も守ってくれたし」
「それは、仲間ですから……」
「いっつも前線で、ずばばーって敵を斬って、いつ見ても格好いい騎士って感じだし!」
「うっ……」
「ユルちゃんなら伝説の騎士になれる、あたしいっつも思うの。本当だよ!」
「ぅ……そ……そ……そうですわね!」
ユルエールは、ふっ、と金髪をかき上げて唇を釣り上げた。
「ええ、わたくしとしたコトが、つまらない悩みを考え込んでいたようですわ。ええ、偉大なる騎士の卵たるわたくしに、恐れなど不要ですわ!」
「その意気だよ、ユルちゃんだよ!」
彼女は単純な性格だった。
という訳で、次回クエストはあっさり決定した。
「次回クエストは火山攻略! がんばるぞー!」
「ええ。わたくしも負けませんわ!」
【騎士】と【勇者】たるもの、こうあらねば!
と、二人は仲良く手を取り、おーっ、と気合いを入れるのだった。
「じゃあ早速準備だね! あ、でも火山って耐熱系の専門防具が必要だよね? リリィちゃん、火山攻略に大事なのって何?」
「耐熱装備」
「へえぇ。具体的には?」
「水属性を含んだ軽装。『水の羽衣』の熱耐性とか、水属性を含んだインナー。……逆に、金属系装備だと熱が籠もって危険」
「だって! じゃあ今回は愛用の鎧は置いておいて、軽装にしよう! あ、ユルちゃんはいつもの鎧は脱いでーーユルちゃん?」
「ミナ。今回のクエストは危険性が高いのでやめましょう」
「さっきと言ってること全然違うよ!? 真の騎士はどうしたの!?」
「い、いえほら、鎧を外すのはやはり騎士として問題あると言いますか、ほら、その……」
ユルエールはなぜかカタカタ震えて、ミナに涙目でキャンセルをお願いするのだった。
もちろん一度受けたクエストを、途中で辞退するのはまずい(ペナルティがかかる)。
押し問答の末、ユルエールは渋々受けたが……。
「鎧の内側に冷却魔法具を入れておきますわ。暑さ対策は万全ですわね!」
「って、ユルちゃん、鎧着てくの?」
「当然ですわ! これはわたくし、マリーベル家の証ですもの! 真の騎士たるもの、暑さごときに倒れるようでは修行不足です」
「えぇ~!? ていうか、ユルちゃんもう汗だくだよ!? 大丈夫!?」
「だだだ、大丈夫ですわ! これは少し緊張しているだけですもの!」
結局、鎧を着ていくことだけは譲らず、四人は火山へと向かうのだった。
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