幕間2 早くも始まる天才軍師メイヤーちゃんの苦労話(1)
「すまないが……説明を、もう一度お願いできないだろうか?」
王国会議。
王都アズリアの中枢、人類の英知が集まる円卓ではその日、お偉いさん達がいつも通りに頭を抱えていた。
「はっ。勇者達は王国会議の誘導により、ポーションを10個用意するクエストを選択。しかし彼女達は自前で薬草を集めてポーションを作ると提案し、マレイ湖へと出発。それから色々あって湖が消し飛びました」
「色々ありすぎではないか!?」
「ですが、王都が吹っ飛ぶよりはマシかと……」
「比較対象がおかしいわ!」
王様がぜーぜーと息をつき、部下に心配されていた。
本日も王国会議は紛糾まったなし。
湖爆破事件の顛末について、対応策を協議している最中であった。
そんな中、今日も招かれた【牛飼い】メイヤーは、真剣な眼差しで考え込む。
初心者の館で学んだ知恵と知略を駆使して、彼女は、
(早く会議をクビになって、おうちに帰りたい……!)
と、タイミングを計っていた。
何処かでうまく失態を演じて、お払い箱になる計画である。
{この前は黄金干草に釣られたけど、今度は上手くやるんだから……!)
メイヤーの頭の中は牛さんでいっぱいだ。
そんな彼女の気も知らず、大臣の一人が、はて、と疑問を抱く。
「しかしなぜ、王都近隣の湖にヒュドラが……? 勇者のスキル【トラブルエンカウンター】といえど、理由もなくヒュドラは生まれないはずだが」
「……? それは、サーペントナーガが、紛れ込んだだけでは?」
ぽつりと答えたのは、メイヤー。
災害級モンスターと呼ばれる巨毒蛇ヒュドラだが、その正体はサーペントナーガの異常成長個体だ。
と思ったが、以外にも会議のメンバーはその事実を知らないようだった。
国王陛下や大臣達がモンスターに詳しい、というのも変な話だろう。
大臣の一人が問う。
「メイヤー殿、詳しく説明頂けるだろうか」
「ええと……サーペントナーガは本来、寒冷地に住む中型のモンスターです。餌の取り合いや生存競争が激しく、個々のサイズはそう大きくならないのですが……何らかの理由で急激に成長した種が、ヒュドラと呼ばれるものになります」
「ほう。急成長する理由は?」
「たとえば周囲に競争相手が一切おらず、餌だけが豊富にある環境。そして豊富な魔力……そう考えますと、マレイ湖にサーペントナーガが紛れ込んだのが、異常成長の原因かと。あれ? でも……」
通常のサーペントナーガの生息域と、マレイ湖は明らかに違いすぎる。
マレイ湖まで、這って単独移動できる距離でもない。
となると……
「誰かが、意図的に湖付近に持ち込んだ? それが何らかの原因で、外来種みたいに成長して……とすると人為的な……?」
「メイヤー殿。人為的に、とはどういう意味かな?」
「はい。マレイ湖にサーペントナーガが現れるのは自然現象的に絶対あり得ないので、それなら、誰かが持ち込んだとか……」
「モンスターを持ち運ぶ!?」
「例えば違法な【育て屋】による、モンスターブローカーなら考えられるかなって」
モンスターブローカーとは文字通り、モンスターを育てて売買する違法業者だ。
時には飼育していたモンスターが脱走し、異なる環境により異常成長したため冒険者ギルドに討伐依頼が来る事件も起きるという。
……という説明をしたら、何故かめちゃくちゃ皆に注目されていた。
あれ? なんで!?
「メイヤー殿。モンスターブローカーについて詳しく聞きたい。どんな人物なのだ?」
「へ!? ええと、そうですね。私も牛飼いなので又聞きですが、ブローカーは結構お金にはなるそうです! でも表に出せないお金ですし、モンスターと一緒に過ごすので、怪しまれないよう辺境地に別荘を構えるそうです。あと、ブローカーには意外と女性も多いと聞きましたので、男とは限らないかと……」
まあ本当は全然知りませんけど!
メイヤーはかなり適当なことを並べた。
そしたら、トントン、と王様がテーブルを叩いて告げる。
「至急、調査せよ。湖の付近に怪しい人物はいなかったか?」
翌日。
婦人が逮捕された。
「メイヤー殿。君のおかげで、大規模な違法ブローカーを摘発できた。それだけに関わらず、芋づる式にブローカー組織が謙虚できそうだ。今年最大の犯罪組織を撲滅したぞ!」
(そうじゃないんだけどなあああ! 私はただのお馬鹿な牛飼いなんだけどなああ!)
メイヤーは心の中で号泣しながら、拍手喝采を受けていた。
違うんですこんなはずじゃないんです、私バカなんですと血の涙を流していると、王様より銀色のメダルを授与される。
「……これは?」
「うむ。先日、勇者達がパーティ結成3周年記念の祝いをしたと聞いてな。つまり我々の勇者ちゃん卒業会議も3周年。その記念メダルを、折角だから君に授与しよう。これからも頑張ってほしい」
(いらないーーーーー!)
今すぐ湖に投げてヒュドラに食べさせたい。
なんて言えるはずもなく。
「うう……ありがたき幸せ……光栄です……」
「そうか、泣くほど嬉しいか! これからも活躍を期待しているぞ、メイヤー殿!」
ぽんぽんと王様に肩を叩かれ、周囲から「国王陛下より直々の授与とは」「あれが王国の次世代を引っ張るブレーンだ、皆、覚えておけ」などと囁かれる。
牛が恋しい……。
彼女は切実にそう思った。
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