2―10 初心者勇者、事件解決の感謝をされる
「……つまり、ポーションの素材を取りに行ったら湖にモンスターがいて、魔法で倒したついでに湖付近の素材もぜんぶ吹き飛んでしまった、と」
「本当にごめんなさい!」
初心者の館に戻ったミナ達は、ロジーナさんにいつも通り謝っていた。
あのあと、ミナ達は経過を貴婦人に報告……したかったが、夫人が倒れてしまったため兵士を通じて事後報告する約束をし、先に帰宅することになった。
ちなみにヴェリルの受注クエスト「湖の毒化事件解決」も湖本体がなくなったので失敗。
「やっぱり勇者に協力なんかするんじゃなかったー! 覚えてなさいよ勇者ミナ!」と半泣きで帰っていった。
あとで謝らなきゃと思いながら、ミナはアイテム袋を提出する。
「あの……ポーションは手に入らなかったんですけど……これを……」
「こちらは?」
「倒したモンスターの素材と、残ったメノミの実から作った、リリィちゃん特性の魔力完全回復薬です! ポーションの代わりに、これ、納品したらダメですか?」
「ダメです」
「あ、あと、ヒュドラの素材と、なんか黒っぽい宝石みたいなものもあって……」
「それは危険物なのでこちらで回収しますけど、クエストクリアにはなりません」
はーい……と落ち込んでしまうミナ達。
今回も、クリアにならず……
「とまあ、成果には繋がらないのですが。それとは別に、ご報告があります」
と、ロジーナはぽんぽんと手を叩いて、ミナ達に封筒を手渡した。
「まず見張りの兵士さんから、モンスター退治の感謝状が届いています」
「へ?」
「最近マレイ湖ではモンスターが増えており、近くの村が被害に困っていたそうです。湖そのものを埋め立てる計画もあったそうですが、湖に別荘を構える夫人が『私有地だから』と断り続けていたそうで……」
その湖に大型の魔物が現れたところにミナが訪れ、湖を消し飛ばした。
結果的に、モンスターの被害は今後ゼロになる見通しだという。
「うーん……あのおばさん、モンスターのいる湖で何してたんだろうね?」
「わたくしの想像では……モンスターの研究?」
「……?(考えるリリィ)」
「まあでも、お役に立てたのなら幸いです」
シャノが開いた手紙には、兵士達からの感謝の言葉が綴られていた。
そのうえ近隣の村からも、感謝の言葉が届いている。
クエストは失敗なのに、うっかり笑顔が零れそうになり、ミナはそっと隠す。
「それと、兵士さんからお礼の品も届いています。こちらは炎の魔力を込めた指輪のようですね」
ロジーナ先生から小箱を渡され、ミナ達が開くと紅色の指輪が収められていた。
「へえぇ、火の精霊の力が込められてるんだって! 珍しいね、ユルちゃん」
「ええ。しかも自動回復効果もあるようですわ」
おおー、と全員でにんまり喜んだ後、指輪を誰が装備するかという話題になる。
「リリィちゃんで良いんじゃない?」
「ですわね。わたくしやミナが魔力増幅しても仕方ないですし」
「ん……でも」
指名におろおろするリリィ。
湖を消してしまい、悪いことをしたな、と彼女はちょっと責任を感じていたのだ。
そんなリリィの背を、ミナがぽんと優しく叩く。
「大丈夫! リリィちゃん今回の主役だもん」
「ええ。先日ミナも迷宮の壁を消し飛ばしましたし、本物の冒険者にはよくあること、ですわ」
「昔の『勇者物語』にでてくる勇者も、よく迷宮や山や遺跡を壊していたそうですから」
みんなに頷かれ、リリィはゆっくりと……赤の指輪へと手を伸ばす。
どうぞ、とみんなに背を押され。
指輪をそっと人差し指に収めると、まるで彼女の知性を示すかのように、紅色の光がまたたいた。
リリィの瞳が透き通るように細められ、自らの手を天上にかざす。
初詠唱に成功して嬉しかったリリィには、その輝きが眩しくて、自然と笑みを結ぶ。
そんな彼女の姿に。
ミナ達もまた、ほんのりと優しい笑みを浮かべて彼女を見つめているのであった。
そうして初心者の館での話が終わった、帰り道。
「あの……みんなに……話したいことがあって……」
リリィはきゅっと唇を結び、勇気を出してみんなを誘う。
何だろう? とミナ達はちょこんと首を傾けた。
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