2―5 初心者勇者、推理に失敗するけど羨まれる


 リリィによれば、湖を毒沼化させたモンスターの正体を曝くには素材採取が必要だという。

 話を整理したミナが、よし、と手を叩いた。

「必要なのは、植物、水、あと……特産品? へえぇ、フルーツがあるんだ。じゃあそれの採取だね! 手分けしてやろう! ユルちゃんはどうする?」

「わたくしは植物採取を担当致しますわ。蔓の切断などは任せて下さいな! ……シャノは水質調査が宜しいのでは?」

「そうですね。毒沼を浴びても浄化できますので。リリィさんはそのフルーツ採取ですか?」

「……(こくこく頷く)」

「役割分担オッケーだね! ……ん? あたしは?」

 ぱちくりと瞬きをしたミナに、ユルエール達はうーんと唸り、

「留守番ですわね」

「……ま、待ってて貰う……?」

「では留守番でお願いします」

「それ何の役にも立ってないよね!?」

 ミナはとりあえずリリィについていくことにした。

 活躍したいのである。


 マレイ湖の名産といえば、ほとりに育つ『メノミ』という、ヤシの木に似た植物だろう。

 しなやかに伸びた茎の先に、オレンジ色の果実が実っている。

 ジュースやお酒の原料にもなり、微量の魔力回復効果もあるらしい。

「あの果物の採取だね。あたしに任せて! 聖剣……じゃないけど、聖剣!」

 先日ニセモノを掴まされたミナだが、あとで確かめたところ、聖剣の武器変化はミナの固有スキル【聖剣】だと判明した。スキル名は自分で付けた。

「あたしの武器よ、大きな大きな【物干し竿】になあれ! とりゃーっ!」

 銅の剣に白い光が収束して、聖剣スキル【物干し竿】が発動する。

 ドシュウーーーーッ!

 メノミの木は見事に消し飛んだ。

「………………」

「ミナ。メノミの樹は……攻撃しなくても、こう」

 リリィが樹を揺らすと、果実がぽとりと落ちた。

 リリィはナイフを手に取り、皮を捌いては香りや手触りを確かめていく。

「ん……浸食してるのは腐毒で間違いなさそう……」

「腐毒……分かった! 毒で湖なら、カエル系モンスターだね。ポイズントードとか!」

 今度こそ、とミナはビシッと指を突きつける。

 採取で役立てないなら、せめて推理を。

「ミナ。トード系は、湖に毒が染みこむほどの毒は持たない……湖だと、ウミヘビ系モンスターの集団だと思う」

「う、ウミヘビ系だね! なら、電撃魔法であぶり出す大作戦!」

「サンダースネーク変異種だと、電撃でパワーアップするから……」

「そ、そっか……じゃあ、サンダースネークなら熱であぶりだして、飛び出たところをあたしが直接攻撃でずばっと」

「直接攻撃すると感電……」

「そ……そっかぁー……」

 ミナはそれから膝をまるめて砂地に『の』の字を書き始めた。

「……あたし、ちょっと木陰で草むしりしてるね……今日は自然環境を守る勇者になるんだ……」

「!? えと、ミナは……天才。すごい。ごはん美味しそうに食べる」

「もうちょっと励ましの説得力が欲しいよ!」

 ごはん勇者は悲しい。

 はあぁ、とため息をつきながら、ミナは資料採取中のリリィに並ぶ。

「リリィちゃんは本当すごいよね。ポーション作りとか、植物鑑定とかモンスター知識とか。あたし、特技ないからなぁ」

 リリィは魔法に植物知識にポーション調合。

 ユルエールは剣術や料理。

 シャノは回復防御魔法に加えて、美人で品行方正。

 対して、ミナはあまり目立つ特技がない、と。

 実は……ちょっとだけ、思う時があったりする。

「あたしもすごい特技欲しいなぁ。人に誇れるようなの、ないかなぁ」

 眉を寄せて落ち込むミナだったが……

 リリィはなぜか、むーっ、と唇を尖らせていた。

 うん?

「私、ミナの方が羨ましい」

「え? なにが?」

「……誰とでも友達になれて……楽しくて……明るくて、元気で……」

「そう? でも、リリィちゃんの魔法もすごいよね? どーん! って」

「ファイアボールだけ……本当はきちんと詠唱したい」

「おお……リリィちゃんにも弱点が……はっ。そうだ!」

 ミナはようやく、自分にできることを閃いた。

「じゃあさ。素材集めをリリィちゃんに頑張って貰う代わりに、魔法を上手に使えるよう、あたしが何とかしてあげる!」

「え」

「方法はまだ分かんないけど、うーん……湖からモンスターを魔法であぶり出すのは必要だよね? なら詠唱時間はたくさんあるから、ゆっくり詠唱を練習してみようよ。あ、でも魔法を教えてくれる先生が欲しいかな。うーん……!」

 今は名案が閃かない。

 閃かないけど、ぜったい何とかしてみよう! 決めた!

「とにかく頑張ろうね、リリィちゃん! あたし手伝うよ!」

 自分に出来ることが見つかり、嬉しくてニコニコするミナ。

 が、リリィはなぜか物凄く不満そうに、むぃーっと口をへの字にした。

「……やっぱり、ミナ、ずるい……」

「えええっ! あたし何か悪いことした?」

「してないけど、ずるい……そういうの、ぽん、とやれちゃうのが……ずるい」

「?????」

「自覚ないのが、もっとずるい……」

 なんだか羨むような目線に、ミナはどうして怒られているのか、よく分からないけれど。

 ただ、まあ。

 その怒り方が、すっごく可愛かったので。

「リリィちゃんは可愛いなぁ」

「ぜ、ぜんぜん分かってない……それが、ミナのいいところなのに……」

 彼女は雪のように白い頬をそっと染めて、ぺちっ! とミナを叩くのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る