2―2 初心者勇者、選択クエストに挑戦する


「選択クエスト、ですか?」

 ミナがリリィに三周年記念の秘密を相談した、午後のこと。

 初心者の館にてクエストを探していると、受付のロジーナさんにちょいちょいと手招きされた。

「ミナさん。じつは本日から、初心者の館では初心者向けの特別クエストサポートが行われることになりました。本来、クエストボードからクエストを選ぶことも訓練の一つではあるのですが、クリアに苦戦している方向けに、館からお勧めのクエストをお伝えしても良いという案が出まして」

 今回はこちらの四つからどうぞと勧められ、ミナ達はクエスト一覧を手に取った。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――クエストA:初心者用迷宮『大樹の森』攻略の準備

クエストB:マレイ湖近隣に育つメノミの実採取の準備

クエストC:魔の山でリザードの卵探しの準備

クエストD:不思議館『マイルジア館』攻略の準備

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「どれも面白そうですね、ロジーナさん! 一つずつ聞かせて下さい。大樹の森攻略準備は何をするんですか?」

「こちらは初心者用迷宮『大樹の森』を攻略する準備として、ポーション十個を調達してもらうクエストになります」

「じゃあ次の、マレイ湖のクエストは?」

「王都東にあります『マレイ湖』にて、メノミという植物の実を採取するための準備として、ポーション十個を調達して頂くクエストになります」

「じゃあ魔の山は?」

「『魔の山』よりリザードの卵を持ち帰るための準備として、ポーションを十個……」

「全部ポーション調達ではありませんか!」

 さすがに突っ込むユルエール。

 シャノが理由を問うと、ロジーナさんは困ったように事情を教えてくれた。

 最近、王都内でポーションが不足しているらしい。

 不足しているのは王都内だけなので、近隣の村から余っているポーションを融通して貰いたいらしく、その輸送作業の一つとしてクエストを依頼してるのだとか。

「分かりました。じゃあ隣町の道具屋から、ポーション十個を……あ、でも」

 近隣の町でポーションを購入すれば、今度はそっちの町で不足するかもしれない。

 なら自前で薬草採取して、ポーションを作ればもっと助かりそう……。

「ロジーナさん。ポーションが不足してるなら、薬草を集めて届けに……はっ!」

 しかし、彼女は思いと止まる。

 これいつもの失敗パターンだ、と!

 というか前々回、カミール草採取でやらかしたのと、同じ展開!

「……えーと……こ、今回は隣村の道具屋に、買いに行こう! うん!」

 自分を納得させて頷くミナ。

 真の勇者たるもの、反省の心を持つべし。

 今回はすぐに気付いて、私えらいーー

 ……けど。

 やっぱり、ポーションをただ購入するだけよりは、薬草採取したい……

 いやでも今回は、ガマンガマンーー

 と、一生懸命に耐えていたミナの袖を、リリィがくいくいと引いた。

「ミナ。あの…………薬草、取りに行きたい。……道具屋で買うより勉強になるし、戦闘があったら、魔法の練習にもなる、から……」

「よし。みんなで薬草取ってきてポーション作ろう!」

「!?」←びっくりするロジーナ

 勇者たるもの、仲間の希望は叶えなければ。

 それが大切な仲間、リリィからの提案なら尚更だ。

 薬草採取の冒険に出たかったんだ、やったぁー! なんて間違っても思ってないのである。

「ミナ。頬がにやついてますわよ?」

「そそ、ソンナコトナイヨー?」

「まったくもう。分かりやすいんですから。でも、リリィから提案なんて珍しいですわね」

「ん……ちょっと……やりたいこと、あって……」

 リリィは恐縮したように「ごめんなさい」と頭を下げる。

 余程、魔法の練習をしてみたい理由があるのだろう。

 ミナ個人の冒険欲もあるが、リリィのために頑張りたいのも、紛れもない本音だ。

「じゃあ薬草、取りに行こう! リリィちゃん。今の時期だと材料どこがいいかな?」

「さっきのクエストだと……Bの、マレイ湖」

「マレイ湖だね! じゃあロジーナさん、マレイ湖での素材採取クエストください!」

「……あの……一応このクエストの建前は、マレイ湖での素材採取のためにポーションを用意するクエストでして、その準備にマレイ湖に行くのは……あれ……?」

「でも、ポーション持ってくれば大丈夫ですよね?」

 どやぁ、と胸を張るミナ。

 今回のクエスト内容は『ポーションを10個調達すること』だ。

 道具屋で購入しても、マレイ湖で素材を集めてポーションを作成しても問題ない。

「分かりました。では、素材からの調達をよろしくお願いします。……ただ、クエストはあくまでポーション十個ですので、くれぐれも他のもので代用したり、変なことをせず……できれば近場で……」

「はーい!」

 かくして勇者見習いミナ達は、ポーション十個納品のため、マレイ湖へと向かう準備を始めた。

「リリィちゃん、最高のポーション作ろうね! シャノちゃんもユルちゃんも、一緒に頑張ろう!」

「湖にはモンスターもいるでしょうから、わたくしの剣技も冴えますわね。マリーベル流剣技、とくと見せてあげますわ!」

「……(ぐっと拳を握るリリィ)」

「そういえば、リリィさん。昔に比べてポーション作りもうまくなったと聞きますけど、いま頑張ればどの位の品質が作れますか?」

 シャノの問いに、リリィはナナメ上を見上げて答えようとしたものの、品質と言われると難しい。

 頑張れば世界樹を蘇らせたり、王都の建物が爆発しても復活できるくらいは可能かも……つまり、ええと。

「ん。王都爆発」

「えええ!? リリィちゃんすごい!」

「王都が爆発するポーション、ですか? それは危険では……」

「お、王都が爆発しても治るくらい、効果の高いポーション……」

 慌てて言葉を足しながら、やっぱり話すのは苦手だなと思うリリィ。

 だからこそ、ポーション作りを頑張りつつ……

 湖での採取ついでに、魔法の練習をしようと思うのだった。


     *


 という勇者ミナ達の会話を、ロジーナはうっかり一部だけ聞いて勘違いした。

 ロジーナは魔法水晶を手に取る。

 魔法通信を開くと、水晶を通して円卓会議が映し出された。

「ええと。勇者達は、ポーション十個調達のクエストを受注しました……が、ポーションを自前で作るために、マレイ湖へと向かい、ポーションが完成したら王都が爆発するかもしれません」

『どうしてそうなった!?』


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 クエスト:ポーション十個を納品しよう!

 内容:マレイ湖の植物採取クエスト遠征のため、準備としてポーション十個を調達して初心者の館に納品しよう!

 報酬:500ベルク

 期日:3日

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