1―9 初心者勇者、やっぱり失敗したけど明日もがんばる
迷宮から帰る途中、ミナ達は大変にご機嫌だった。
「あたし達ついにやったよ、ユルちゃん! クエスト初クリアだよ、卒業かな!?」
「お、落ち着きなさい、ミナ。まだ一つクリアしただけですわ! どど、動揺してはいけませんわよ!?」
「……(ドキドキ)」
「そうです、皆様。一度落ち着くためにも、おやつにスライムを食べましょう。ほら、そこにブルースライムが……」
「シャノちゃんが一番落ち着こう!?」
そうして館の受付係であるロジーナさんに、クエストクリアの報告を提出した。
が。
「申し訳ありませんが、こちらのクエストは偽物のようでして」
「「「ええーーーーーっ!?」」」
聖剣が偽物なら、クエスト自体も偽物に決まっているのだと、ミナ達は全く気付いていなかった。
*
「まさか、クエストがニセモノだったなんて……」
初心者の館に併設された宿舎に帰宅し、シャノのお茶を口にしながら、ミナはぐったりと机に突っ伏していた。
今回こそはと思っての大失敗。
はあぁ、と溜息をつくミナ。
その対面にユルエールがのんびり座りながら、彼女の頬をぷにぷにとつつく。
「といいますか、ミナ。あなた、クエスト票を受付に見せなかったんですって?」
「ぎくっ!」
「クエストボードには誰でも依頼を張れますけれど、中には報酬が不当に低いや偽物もあるから、必ず受付を通しなさいと習いましたでしょうに」
「あうっ!」
実はまったくもって、ミナの完全ミスであった。
はあぁ~、と落ち込むミナ。
「……とまあ、本当なら怒るところですけれど」
と、ミナを叱っていたユルエールが、頬をゆるめてふふっと笑い。
手元のアイテム収納袋をひっくり返した。
「……へ? わ、どうしたのこれ!」
魔法で収納された袋から、ドン! と転がってきたのは、大きなお肉や黒光する鱗だ。
他にも黒々と光るダイヤのような宝石に、艶ややかに逆立つ黒鱗まで。
「あのトカゲが色々落としたので、ついでに皆で拾ってきたのですわ。価値がありそうではなくて?」
「……素材……いっぱい……」
「宝箱の回収品もありますよ、ミナさん」
ユルエールに続き、リリィ、シャノもそれぞれアイテムを机に並べる。
薬草に毒消し草、500ベルク程度の小銭が机に転がる。
今回のクエストは偽物であったため、クリア報酬は存在しない。
が、それを差し引いても、十分な成果だった。
「みんな凄いなぁ。あたし倒すのに夢中で気付かなかった……。みんな本当、ごめんね?」
ミナは謝りながら、今までのことも思い出す。
「今回のはニセモノだったけど、前も、あたしが勝手に薬草取りに行ったり……その前も……迷惑かけてばっかりで」
ロジーナに話した通り、クエスト失敗の、大半の理由はミナにある。
そのせいで卒業できず、勝手なことしてごめんなさい、と謝るミナ。
……が、ユルエールは不思議そうに小首を傾けた。
「なんの話です?」
「へ?」
「ミナ。今回のはニセモノでしたけど……別にわたくし、失敗の原因がミナにあるとは思ってませんわよ」
なぜか、ユルエールとリリィ、シャノは揃ってきょとんとする。
ミナの意図に気付いたシャノが、にこりと微笑んだ。
「ミナさん。私達、ミナさんが途中で脱線していることには、割と気がついていますよ」
「そうなのっ!?」
「はい。明らかに道が違うんですから……。でも、あえて止めなかったことも、多いんです。その方が、結果的に良いことが多いですからね」
シャノは改めて、ミナの行いについて説明する。
前回の薬草採取失敗だって、クエスト的には失敗だけど、後に確認したらエクスポーションは大変役に立ったとロジーナさんから聞いていた。
ゴブリン退治の途中でオークを倒して失敗したけど、村人に感謝され。
薬草採取で薬草をぜんぶ使ったけれど、旅人に感謝されたのも事実だ。
「確かに失敗ではありますけど、私達は後悔していませんし、止めなかった私達の失敗でもあります。その程度なら、いまさら謝ることではありませんよ」
「ううっ……シャノちゃん……」
「全くですわ。それにわたくし、人の良いミナのことを……ち、ちょっとは、尊敬してますし」
恥ずかしげなユルエールに励まされ、ミナが嬉しさに目元を潤ませていると。
リリィが背中からぎゅっと抱きついてきた。
彼女は恥ずかしがり屋なので、あんまり喋らないけど優しいのだ。
(うわぁ。どうしよう。みんなが優しくてすごく嬉しい)
幸せすぎてあたふたするミナ。
普段は元気なミナだが、この手の幸せを受けてしまうと、やっぱり照れるし恥ずかしい。
嬉しさのあまり頬がゆるんでしまう。
どうしようどうしよう、と彼女がつい照れていると。
ユルエールがパチンと手を鳴らし、みんなを元気づけた。
「という訳で、話はおしまいですわ。そしてわたくし、騎士ユルエール=マリーベル! 本日の夕食当番はミナですけれど、代わりに晩ご飯を用意致しますわ。本日のメニューは、黒トカゲの丸焼きステーキ!」
「え、ユルちゃん、このトカゲ食べれるの? 火炎ブレス吐いてたよ?」
「問題無いそうです。ね、リリィ?」
こくこく頷くリリィ。
博識な彼女が言うなら間違いないだろう。
という訳で、夕食は丸焼きステーキとなった。
がつんと殴りつけるような、肉と故障の香りが広がる。
そして美味しいものが出てきたら、すぐに元気になるのが勇者見習いミナである。
「すっごい美味しそう。シャノちゃん今日はご馳走だね」
「わたくしの料理、というか焼いただけですけど自慢しておきますわ! ほら、切り分けますわよ。リリィ。あなたの分」
「ん……シャノ、これ……」
「あら、ステーキにガーリックチップとは、素敵ですね。……そういえば、ミナさん。本日は実家から暗黒トマトが届きまして」
「暗黒トマト!」
わいわいと仲良く夕食を取りながら、ミナはつい、ニヤニヤと笑みがこぼれてしまう。
どうしよう。
すっごい幸せ。
「どうしましたの、ミナ。にへら~っとして」
「ううん。ユルちゃんは可愛いなあ、優しいなぁって」
「なっ。……そんな褒め方しても、お肉はあげませんわよ?」
慌てて誤魔化しつつ、ミナはニコニコしながら、明日に向けて頑張ろうと思うのだった。
で、翌日。
「みんな! 新しいクエスト受けてきたよ! 今回こそ本物の聖剣……」
「いや、ちょっとは反省なさい!」
ミナはやっぱり、ミナであった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
初心者の館 クエスト報告レポート
クエスト:聖剣を使って、君も勇者になろう!(勇者志望限定/秘密クエスト)
結果:失敗/クエスト自体が偽物だった
取得アイテム:
トカゲのきれいな黒鱗
トカゲのきれいな黒宝石
トカゲのお肉(←食べた。美味しかった)
薬草
毒消し草
聖剣(←銅の剣だった)
拾った500がルド
報告書:
聖剣を使ってボスを退治しに行って、スライムを倒して隠し通路を見つけ、最後に迷宮の先で大きなトカゲと戦いました!
敵は大きかったけど、ユルちゃんがバシーッ! リリィちゃんがどかーん! シャノちゃんがばりばりーっ! 最後にあたしが聖剣で一気にどどどーっと攻撃して倒しました!
でも、クエスト自体がニセモノでした。残念だけど、仲間達に元気をもらって美味しいお肉を食べてすごく美味しかったです。これからも頑張ります。
報告者:ミナ=サリア
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
館からのお返事:
何度かお伝えしていますが、クエスト報告書は事実を列記し反省点を述べる場所です。
感想文を書くところではありません。
具体的にスキル名や攻略法を書いたのち、具体的な反省点を記しましょう。
あと次回はクエストをきちんと確認して、受付に持ってきてくださいね。
回答者:ロジーナ=クライン
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます