1―4 初心者勇者、迷宮に挑戦する
そして翌日。
ミナ達はクエストに従い、聖剣の試練場『王都東ノ迷宮』を訪れていた。
この迷宮をクリアすれば、晴れて【勇者】になり、そして初心者の館卒業である。
「ふんふーん♪」
「ミナ。ご機嫌ですわね」
「えへへ~……いやぁ。勇者になれるかもって思ったら、夜しか眠れなくて」
「しっかり寝れてますわね!」
ニコニコと歩くのは、聖剣を携えた【勇者】見習いミナに、愛用の精霊銀の鎧を身につけた【騎士】ユルエール。
魔法使いのローブを羽織るリリィに、杖を背負ったシャノの四人だ。
四人は迷宮の入口について、手元のアイテムを再確認する。
「ポーションよし。コンパスよし。お弁当よし、と……みんな【帰還の翼】は装備した?」
ミナが腕に巻いた、鳥型のレリーフが刻まれた腕輪を掲げる。
帰還の翼とは冒険者が大ダメージを受けた際、自動的に発動して転移する腕輪型マジックアイテムだ。高価ではあるものの、装備しないと冒険や迷宮探索に出てはいけない決まりになっている。
ちなみに初心者の館では入館時に一個だけ貰えるが、転送先が館に定められている。
うっかり帰還してしまうと先生から「おお初心者よ、やられてしまうとは情けない!」というお小言とともに成績を大幅減点されてしまうため、注意が必要だ。
準備ができたことを確認し、ミナはぐっと拳を握る。
「みんな、気をつけて進もう! 勇者の試練、手強いよ!」
「ええ。もしかしたら、恐ろしいモンスターが出てくるかもしれませんものね」
「……吸血鬼、とか……」
「ど、ドラゴンとか出てきたら、どうしましょう……?」
「大丈夫。勇気出して、進もう!」
ミナは全員を勇気づけ、地下一階への階段へと進んでいく。
*
地下迷宮は、薄暗い石畳の道が続く地下墓地のような構造だ。
時折、ぴちょん……と小さな水滴の音が響いている。
「おお。いつもの迷宮に比べて本格的だね……でも大丈夫。あたしには聖剣があるからね」
「ミナ、自信満々ですわね」
「任せて! 勇者の試練だもん、あたしの聖剣でもう敵をばっさばっさと倒しちゃうよ!」
ぶんぶん腕を振るミナ。
いつも元気な彼女だが、今回はとくに気合いバッチリであった。
なにせ勇者限定。つまりミナ限定。
ミナが大活躍してこそ、勇者クエストとしての意味があるだろう!
(あたしは勇者になる! そのために絶対クリアする!)
まだ見ぬ強敵に、むふん、とミナが息巻いたそのとき。
廊下の奥から、がさりと音を立ててモンスターが飛び出した。
「出たーっ! あたしに任せて! 聖剣の力を見せ……」
ぷるるんっ。
ブルースライムだった。
「せいっ」
ユルエールが切る。
スライムは倒れた。
「…………た、たまたま弱い魔物だったね。でも、次はきっと危ないモンスターだよ!」
ぐっ、とミナが聖剣を構えたそのとき、またもモンスターが現れる。
「今度こそ出たーっ! あたしの聖剣……」
ブルースライムだった。
魔法使いのリリィが、杖でぺちっ、とはたき落とす。
するとモンスターは宝箱を落とした。
「リリィちゃん、待って、罠かも! ここはあたしの聖剣で……」
「?」
リリィは宝箱を開けた。薬草を手に入れた。
ミナはちょっと残念そうにションボリしていた。
「あ、ご、ごめ……」
気付いたリリィが薬草を宝箱に戻し、そーっとミナにお返しする。
「……す、すごいの入ってるかも」
「入ってないよ! 知ってるよ!」
その後もミナ達はブルースライムや、たまに少し強いレッドスライムをちまちま倒した。
道中の宝箱は、五十ベルクや毒消し草など。
そんなことが二十分ほど続いて……
ミナは、ちょっと落ち込んでいた!
「聖剣の出番がない……」
「だ、大丈夫ですよ! これからです、きっと! 地下二階に行けばすごいモンスターとか出ますよ!」
優しいシャノが、あたふたと励ましてくれる。
でも、これは勇者の、聖剣の試練なのだ。
活躍の場がないのはなぁ~。
と、何となく落ち込むミナ達の前に、分かれ道が現れた。
右と左、二つに分かれた通路だ。
シャノは、そうだ、と可愛く眉を上げてミナを励ます。
「見てください、分かれ道です。こういうときに聖剣のお導きで、正しい道が分かったりするかも……」
「はっ」
ミナはふと思い出す。
彼女が憧れた『勇者物語』にも、聖剣の輝きによって幻の霧を払い、新たな道を切り開いた逸話があった。
というか、そろそろ聖剣を使いたい。
「わかった。やってみるね。よーし!」
ミナは目を閉じて精神を集中し、聖剣に魔力を収束させた。
聖剣が白い光を帯びて、魔力の渦を巻く。
「聖剣よ、えーと……あたし達に正しい道を導き給え! 【光の道】!」
なんかそれっぽいスキル名を付けて、ミナが剣を振り下ろす。
ドシュウーーーーーッ!
すると魔力の奔流が迷宮をぶち抜き、分かれ道の真ん中に、新しい通路……というか空間を作り出した。
おお! とミナが目を輝かせる。
「か、隠し通路……! シャノちゃん見て見て、道見つけたよ!」
「え」
笑顔で大喜びのミナだが、シャノ達はちょっと戸惑う。
今のは、迷宮の壁をただ破壊しただけのような……。
と思ったものの、ミナがあまりに喜んでいた。
それに聖剣クエストだ。並の発想力では太刀打ちできないかもしれない。
魔王のお城だって玉座の裏に隠し階段があるのだ、聖剣の迷宮に隠し通路があるのも定番だろう。
「シャノ。実はこっちが本当の道ではなくて?」
「可能性……ありますね、ユルエールさん。ええ、頑張りましょう!」
「……(そうかなぁ? と思うけど黙ってるリリィ)」
そして全員で進むと、すぐに異変に気がついた。
石造りだったはずの迷宮の壁が、いつの間にか淡い輝きを持つごつごつとした岩肌へと変わり、漂う空気そのものも変質している。
「ほら見て、迷宮の構造が変わったよ! こっちが本当の道だよ!」
「くっ……やりますわね、ミナ。わたくしもまさか、隠し通路があるとは思いませんでしたわ」
「ミナさん、すごい……!」
ユルエールとシャノも感心し、ここからが本番だとばかりに進んでいく。
その仲間達を見ながら、魔法使いリリィは、
(ここ、別の迷宮の気もする)
と、少しだけ思ったけど、みんなが楽しそうなので黙っておくことにした。
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