1―3 初心者勇者、聖剣を試す


「うーん。聖剣の使い方って、普通の剣とおなじでいいのかなぁ」

 ミナは森ですぽん! と引き抜いた聖剣を掲げながら困っていた。

 にぶい銀色をもつ刀身からは、なんとなく聖なる力を感じないこともない。

 とはいえ使用方法は分からない。

 ミナが今から挑むのは、聖剣を用いて戦闘するクエスト。

 使い方に慣れておくのは大切だろう。

「本番で、みんなに迷惑かけると困るし……練習してみようっと!」

 うん、と頷いて森を後にし、王都郊外の草むらへと向かう。

「モンスター、モンスターっと……」

 しばらく草むらを歩いて、ミナは試し切りの相手を見つけた。

 ブルースライム。

 スライム類の中では物理、魔法防御ともに弱く、子供でも倒せる相手だ。

「よーし。聖剣の力を見せてあげるよ! せいやーっ!」

 ぶにゅっ!

 聖剣を叩きつけると、スライムは鈍器で叩かれたように、あっさり倒せた。

「おお……剣は銀色でぴかぴかなのに、思ったよりも鈍い切れ味と、安心できる剣の重さ……切るっていうより叩くって感じのコレが、聖剣……!」

 ミナは剣ソムリエのように唸ったのち、

「普通! あたしの持ってる銅の剣と変わんない!」

 せめて鋼の剣くらいの破壊力は欲しかった。

 でも、仮にも聖剣。

 こんなに弱いはずがない。

 使い方が違うはず、と聖剣を掲げたり、ナナメにして観察するミナ。

「聖剣っていうくらいだし、もっとこう、ずばばばーっ! とか、どーん! って感じの何かあるよね。うーん……もしかして魔法剣、とか?」

 魔法剣とは、魔力を流し込むことで威力を発揮する武器のことだ。

 ミナの愛読書である勇者物語にも、魔力を込めて炎を宿す【炎の剣】や、敵の生命力を吸収する【ブラッディソード】等が存在する。

「せっかくだし練習してみようっと。ええと、魔力を集中するには……」

 ミナは目を閉じて、精神を集中する。

 瞑想と呼ばれる行為である。

 心を無にして世界に身を委ねることで、すごいものに目覚める気がした。


 そうして五分が経った。

 特になにも起きなかった。

 というか、瞑想しても魔力は増えたりしないのである。

 ミナは最初こそ(考え事しないぞ!)と雑念を追い払っていたが、そのうち余計なことを考え始めた。

(昨日の晩ご飯、ユルちゃんのクリームシチュー美味しかったなぁ。今日の晩ご飯は何かなぁ。聖剣クエストクリアしたら、お祝いに美味しいお肉買ってみんなでパーティしようっと。うん、卒業記念パーティだね!)

 気付けば頭の中は、ご飯でいっぱい。

(お肉もいいけど、フライパンでさっと焼いた卵とかも最高だよね……卵って何であんなに美味しいんだろうなぁ。あ、ソーセージもいいよね。フライパンで油の弾ける、パチパチっ! っていう音が……うーん、お腹すいた)

 我慢できずに、ぱちっと目を開く。

 すると、

「ほわっ!? なにこれ!」

 聖剣から光があふれ、ミナの前で楕円形の光として固まっていた。

 どう見ても、フライパンの形だ。

「あ、でもこれ使えそう!」

 ミナは早速スライムを探し、聖剣で叩いてみた。

 バチーン! とすごい音がしてスライムが爆発四散する。

「すごい、変形! もしかしてこれ、他の形にもなるのかな……?」

 ミナが目を輝かせていたそのとき、草原が揺れ、新たなモンスターが現れた。

 ハードアルマジロ。

 固い殻により物理攻撃全般に耐性を持ち、近づくとその固さで体当たりしてくる厄介な相手だ。

「この辺でアルマジロって珍しい……剣の攻撃は効きにくいけど……そうだ!」

 ミナは聖剣にぐぐっと意識を集中する。

 頭の中で、弓の形をイメージ。

 すると剣の柄が翼のように伸びてしなり、弓のように広がった。

 剣先もまた細く鋭さを増し、矢の形へと変形する。

「そして……炎よ、灯れ!」

 ミナの声に、矢の先にぼおっと炎が灯る。

「聖なる炎よ、敵を貫け! 聖剣スキル【聖なる火の矢】!」

 それっぽいスキル名をつけて放つと、聖剣より放たれた火矢がアルマジロを貫いた。

 炎攻撃であり、同時に魔法攻撃である一撃が、アルマジロを貫いて倒す。

 もはや剣でなく射撃であったが、ミナは「おおー!」と大満足だ。

「もしかして、もっと他にも変形できる? うーん……でも、これだけ出来れば十分だよね? よーし!」

 ミナはにまにまと笑みを浮かべ、聖剣を大切そうに抱えながら、王都の草原を後にするのだった。


     *


 で、帰宅してから聖剣クエストについて仲間達に説明すると。

「ミナったら、また変なクエストを受けて、もう……ホントに大丈夫なんですの? 聖剣クエストなんて聞いたことありませんわよ?」

「えへへ~……」

「褒めてませんわ!」

 むっすー、と眉を尖らせるユルエール。

 が、彼女は怒りながらも、チラチラとミナの聖剣を伺って。

「……それで、ミナ。その聖剣、ちょっと触らしてもらっても宜しいかしら?」

「ダメっ。これ勇者限定!」

「いいじゃないですの、別に減るものじゃないでしょう!? わたくしだって聖剣使ってみたいんですもの! リリィもシャノも気になるでしょう!?」

「……研究してみたい……」

「私も、ちょっと触ってみたいかも……あ、いえ違うんですけれどっ」

 みんな揃って、聖剣には興味津々なのであった。

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