1―2 初心者勇者、聖剣を見つける


「失礼しまーす……えっと。ここ、だよね?」

 クエスト票を手にしたミナは、王都郊外にぽつんとある一軒家を訪れていた。

 外観はボロボロで、あまり人が住んでいるようには見えない。

 本当にこんな所にいるのかな? と、ミナがこっそり家を覗き込むと。

 銀髪の女の子が倒れていた。

「大丈夫ですか!?」


     *


「はーっ、助かったわ! アナタ中々いい人間ね!」

 ミナが助けた少女は、単に空腹で倒れていたらしい。

 近所で売っていたサンドイッチと回復ドリンクを渡すと元気になり、ヴェリル=カノンと名乗った。

 銀色の髪に、きれいな褐色肌。

 ピンと尖った珍しい耳に、ミナは「エルフ種かな?」と思ったけれど、エルフ種は雪のように白い肌をしていた気がする。

 日焼けエルフかもしれない。

「で? あなた……ええと、ミナって言ったわね。何しに来たの? ……はっ。もしかして家賃の取り立て? 町内会費? たたた、助けてもらった恩はあるけど、無いものはないわよ!? お願い、もうちょっとだけ待って!」

 壁に逃げ、なぜかお財布を抱いて震えるヴェリル。

 ミナはきょとんとしながら、手元のクエスト票を渡してみせた。

「えっと、聖剣クエストを受けれると聞いたんですけど!」

「聖剣……え、あなた勇者志望なの!? 本当!?」

 ガタッ! と今度は身を乗り出すヴェリル。

 びっくりしたミナがこくこく頷くと、彼女は「よし、よし、よーしっ!」とやたら元気に拳を握って喜んだ。

「勇者志望……やっと餌につられて引っかかったわね……! これで勇者志望を倒せば借金もちょっとは……」

「倒す?」

「ハッ! なな、何でもないわ。うん。ええと、勇者志望のミナさんね! アナタのことをずっと待っていたわ!」

 ミナの手を取り、ニコニコ笑顔でテーブル席に案内するヴェリル。

 妙に慌ただしい。

 ちょっとヘンだな~、と思うミナであったが、そんな疑問は次の一言で吹き飛んだ。

「実はアタシね、勇者を選定するために訪れた女神の使いなのよ!」

「えええっ!?」

「しーっ。大きな声を出さないで。魔王の手下がどこで耳を潜めてるか分からないわ……これは勇者限定、あなただけにする、特別な話よ」

「特別……!」

 あなただけに。

 勇者限定。

 なんだかすごい、と身を乗り出すミナ。

「ミナさん。あなたも勇者を目指す者なら、勇者物語を知ってるわよね? その昔、伝説の勇者は聖剣を手にするべく旅を続け、やがて世界樹の頂上にあった剣を引き抜いた逸話」

「知ってます! 世界樹物語ですよね、大好きです!」

「ええ。その時に勇者が引き抜いた聖剣を、新たな勇者であるあなたに托したいの」

「!?」

「もちろん、タダで渡す訳じゃないわ。あなたには軽い試練を受けてもらうわ」

 そしてヴェリルは地図を取り出し、王都近郊の森にある一角を示した。

 薬草採取のために初心者がよく訪れる森の奥に、聖剣を隠したという。

「ミナさん。あなたへのお願いは、この森に隠した聖剣を使って『王都東ノ迷宮』地下二階を攻略すること。最深部のボスを倒せたら、あなたは伝説の勇者として認め、聖剣を托すわ」

「……クリアしたら、あたしが【勇者】……?」

「もちろん! 世界のみんなが、きっとあなたを認めてくれるわね!」

「おおー!」

 ミナの瞳が輝く。

 伝説の【勇者】になれる。それはつまり、

「あたし、世界でたった一人の勇者なんですね!」

「ええそうよ、勇者よ!」

「勇者、すごい!」

「ええ、とっても凄いわ、世界一!」

「ということは、クリアしたら初心者の館も卒業できますよね!?」

「……はい?」

 一瞬ヴェリルの思考が止まる。

 なにを言ってるんだこいつは、という顔で目をぱちくり。

「あなた一般冒険者じゃないの? 冒険者の館のクエスト受けて来たんじゃないの……?」

「見習いです! 初心者の館のクエスト票、持ってきました! 見習い三年目です!」

「え。初心者の館って、どんなポンコツでも三ヶ月あれば卒業できるんじゃ……」

「じゃあ頑張ります! ありがとうございます、ヴェリルさん!」

 ヴェリルがぽかんとしている間に、ミナは地図にメモを取り、元気に家を飛び出した。

 伝説の聖剣を手にして【勇者】に、そして立派な【冒険者】になる。

 それが、ミナの夢なのだ!


 そんなミナの背中が消えた後、ヴェリルは気まずく頬を掻いてから。

「ま、まあ見習いでも将来の勇者候補だもの……ふふ、今のうちに潰しておいて損はないわね!」

 含み笑いをするヴェリル。

 彼女にはなにやら、秘密があるのだった。


     *


 そんなこととはつゆ知らず、ミナは指定された森を探す。

 探すこと三十分。

 台座にばっちり刺さった聖剣を見つけ「おおー!」と歓喜の声をあげたのだった。

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