1―1 初心者勇者、次こそクリアを目指して頑張る


 初心者の館。

 王都が掲げた『冒険者育成計画』に基づき創設されたその施設では、今日も心意気を新たにした初心者達の姿でにぎわっていた。

 初心者の館では練習クエスト以外にも、魔法やスキルの鍛錬所。

 モンスターの知識や迷宮サバイバル技術を学ぶ座学など、様々な教育施設が整っている。

 冒険者ギルドを模して作られた玄関口は、元気あふれる新米達がわいわいと騒いでいる。

 そこに、薬草採取クエストを失敗したミナの姿も混じっていた。


 練習クエストには、結果を報告するレポートの提出が義務づけられている。

 クエスト中の出来事や戦闘結果を記録し、問題点を改善するためだ。

 レポートを受付に提出しつつ、ミナは受付のロジーナさんに「はいっ」と手を挙げて質問した。

「ロジーナさん! お願いがあります!」

「何でしょう、ミナさん」

「あたしに練習用クエストのクリア方法を教えて下さいっ」

 ここ最近、クエストの失敗が続いている!

 改善しなければ!

 そう思ったミナは、ロジーナにぜひ意見を伺いたいと思ったのだ。

「……突然、どうしたんですか?」

「あのですね。あたしよく考えたら、今まで受けたクエスト失敗の原因が、あたしにあるんじゃないかと思いまして!」

「え……今さらですか……?」

「今までは、ユルちゃんやシャノちゃんが『失敗はよくあることだよ』って励ましてくれてたんで気にしなかったんですけど……ちゃんと理由を聞いて反省しないと、と思って」

 ロジーナは驚いたものの、ミナなりに考えてのことだろう。

 分かりましたと頷き、棚からミナが今まで提出したレポートを並べていく。

「では、ミナさん。今までのクエスト失敗理由から反省してみましょうか」

「はいっ」

「今回の薬草採取のレポートはあとで頂くとして。前回クエストは近所の畑に出た、スライム退治でした」

「はい!」

「結果、どうでした?」

「えっと、スライム退治してたら、村の近所にゴブリンが出て、それも倒してたらオークが出てきたので、洞窟に行って倒してる間に、クエストが時間切れになりました」

 そうですね、とロジーナはレポートを横に添える。

「その前は、王都近くの森にて薬草採取でしたね」

「えーっと……薬草採取中に怪我人を載せた旅人さんと出会って、治療のために薬草ぜんぶ使って……その旅人さんが困ってると聞いたので、一緒にモンスター退治しました!」

「そのひとつ前は?」

「迷宮の地図作製クエスト中に、すごい宝箱を見つけて、手に入れるために壁を壊したら崩落して地図が……」

 はっ、とミナは真実に気がついた。

「分かりましたか?」

「はい。あたしの実力不足ってことですね!」

「えっ」

「本物の冒険者は、スライム退治の途中に大迷宮のハイオーク退治くらいできて当然……二つのことを同時にこなす、それが一流の冒険者で」

「もう少し自重すれば良いんですよ!」

 お説教された。

 スライム退治を受けたなら、緊急時を除いてオーク退治は別クエストで受けましょう。

 迷宮の地図作製中には、迷宮を壊して宝を手に入れる前に地図を書きましょう。

「ミナさん。お人好しなのは大変良いですけど……このままでは館を卒業できず、フリーの冒険者になりますよ?」

「はうっ!?」

 ミナはびくっと背を正す。

 フリーの冒険者とは、王都非公認の冒険者のことだ。

 受注できるクエスト数は少なく、内容も『落とし物を届ける』とか『猫探し』など、本来の冒険者とは程遠いものばかりである。

「それは困ります……あたし、頑張ります!」

 ミナは【勇者】になりたい。

 ただの町娘であったミナは、家に置かれていた絵本『勇者物語』に憧れ、両親にたくさんお願いして【勇者】を目指した。

 七つの大陸を旅し、伝説の世界樹や、竜の渓谷、幻の都……たくさんの世界を旅し、人々のために役立つ勇者。

 そんな人に、なりたい。

 それに、ミナには仲間がいる。

 【騎士】ユルエールに、【魔法使い】リリィ、【僧侶】シャノ。

 彼女達と一緒に卒業するためにも、ミナはもっと頑張りたい。

「ロジーナさん、コツってありますか? うっかり余所見しなくて済むようなクエストとか」

「そんな斬新な質問は初めてです」

 うーん、とロジーナは考えて。

「自分がぜったいに余所見しない、熱中できるクエストを探してはどうでしょう? 自分が大好きでたまらないクエスト、とか」

「『お菓子食べ放題コンテスト大会優勝クエスト』とかですか?」

「そんなクエストはないと思いますけど、まあ」

「ありがとうございます、頑張りますっ」

 ミナはぐっと拳を握り、気合いを入れて去って行く。

 その背中を見送ったロジーナは、ふと淡く微笑み、溜息をついた。

「やる気も十分ですし、人も良くて大変結構なのですけれど……」

 もちろんミナ達とて、三年間ずーっと間違い続けてきた訳ではない。

 間違いたくて間違えた訳でもない。

 ただ彼女、いや彼女達の一行には一つだけ、常識では計れない問題事があるのだった。


     *


 さっそくクエストを探したミナだが、一日二日で見つかる訳ではない。

 ミナ達は近所でちまちまモンスターを倒したり、王都でバイトをして過ごす。


 そして三日後。

「今日はいいクエスト、あるかな~♪」

 館に朝一で張り出される練習用クエスト一覧を眺めるミナ。

 すると偶然、ぺらっ、とクエスト用紙が風に煽られ、裏側に張られた別クエストを見つけた。

「ん? ……んんんーっ!?」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 クエスト:聖剣を使って、君も勇者になろう!(勇者志望者限定/伝説の秘密クエスト)


 内容:伝説の聖剣をお貸ししますので、勇者の修行として王都近隣にあるダンジョン『王都東ノ迷宮』のボスを退治してください。真の勇者を目指す人ならクリアできます! 特典で聖検も貰えます!

 報酬:お貸しした聖剣、4000ベルク、薬草詰め合わせセット

 期日:3日

 ○詳細は以下の住所にてお話します。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「聖剣を貰える……! これだーっ!」

 ミナはクエスト票を手に取り、目的の住所に向かうのだった。

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