うちの勇者ちゃん達がレベル99になっても初心者の館を卒業しない件について
時田 唯/電撃文庫・電撃の新文芸
プロローグ 初心者勇者は卒業を目指す
「ミナ。本当にこの道で大丈夫なんですの?」
「うーん。もらった地図には『薬草たくさん』って書いてあるんだけど……」
地図を頼りに、ミナ達四人パーティはテクテクと迷宮を歩いていた。
魔法のアイテム袋には、まだ薬草が一つも積まれていない。
ミナ達は一流の【冒険者】を目指す見習いだ。
冒険者とはモンスター退治や素材採取、迷宮攻略などの依頼をこなす者。
ミナはその中でも【勇者】になることを夢見る女の子だ。
しかし、冒険者には誰でもなれる訳ではない。
王都にある教育施設【初心者の館】を卒業し、ライセンスを取得しなければ、一人前の冒険者として認められない。
その練習クエストとして、ミナは仲間達とともに滝裏の迷宮を訪れていた。
カミール草という薬草を採取し、館に届ける……
だけ、なのだが。
「ミナ。必要分のカミール草さえ採れば十分ですのよ? 寄り道も程々にしなさいな?」
「そうなんだけどさ、ユルちゃん。いま王都で薬草不足だって聞いたから、少しでも多い方がいいかなーって」
「まったく。ミナはすぐ人助けに走るんですから」
「えへへ~」
「褒めてませんわよ!?」
ミナに軽いツッコミを入れるのは【騎士】見習い、ユルエール=マリーベル。
黄金の髪にツンとした瞳、精霊銀の鎧に身をまとったお嬢様騎士。
ミナの幼馴染みでもあり、お説教係でもある。
「まったくもう。毎回これでトラブル起こしてるのですから、反省して……ないですわね、その顔」
「いやぁ。ユルちゃんも何だかんだいいながら手伝ってくれるから、嬉しくて」
「なっ。そりゃあ、わたくしだって困ってる人の助けには……」
もごもごと照れくさそうに、そっぽを向くユルエール。
彼女のそんな優しさが、ミナは大好きだったりする。
「あのぉ、ミナさん。薬草集めには賛成ですけれど、迷子には気をつけてください。リリィさん、迷宮コンパス使えます?」
「……ん。いま起動中……」
その横から助言をするのは、パーティでも真面目な【僧侶】見習いシャノ。
そして口数少ない【魔法使い】見習いリリィの二人だ。
シャノはおしとやかな少女で、いつもミナ達に助言と補助をしてくれる心優しい僧侶だ。
ふわりとした優しい黒髪にたおやかな笑みを浮かべる美人で、ミナが知る限り欠点がない完璧少女。
一方コンパスを掲げるリリィは、全部がちっちゃ可愛い魔法使い。
口数は少ないけれどいつも一生懸命で、誰より賢く知識がある、頼りになる女の子だ。
ん、とリリィが迷宮の奥を示す。
「コンパス起動。薬草この先」
「皆さん、足元に気をつけてくださいね」
「ありがと、シャノちゃん。リリィちゃん。多めに薬草取ったらすぐ戻るからね。よーし。今日こそ練習用クエストをクリアして、卒業しよう!」
つんつん騎士のユルエール。
真面目な僧侶シャノ。
寡黙な魔法使いリリィ。
この三人が、ミナの大切な仲間達だ。
彼女達には夢があった。
ミナは伝説の職業【勇者】になること。
ユルエールは実家に誇れる【騎士】に。
リリィは植物研究者としての【魔法使い】。
シャノは心優しく人のために働ける【僧侶】だ。
「ふっふーん♪ 勇者、勇者、楽しみだなぁ~」
鼻歌交じりに進むミナ。
今日こそ練習クエストをきちんとクリアして合格を貰い、一流の冒険者なってみせる!
……と、意気込んでいたミナが、ふと壁に手をつくと。
ぼこんと壁がへこみ、隠れた道が現れた。
「あれ、隠し通路? 地図にはないけど……リリィちゃん、分かる?」
「ん。奥から薬草のにおいがする。かなり強力」
「本当!? じゃあこっち進んでみよっか!」
「ミナ、またそうやって寄り道して……」
むすっと怒る騎士ユルエールだったが、ミナは、でもね、でもねと提案する。
「でもさ、ユルちゃん。地図にないってことは、伝説の薬草があるかもしれないよ? そしたらあたし達、伝説になれるかもよ? それに街の人もすごく助かると思うよ!」
「で、伝説……? この、マリーベル家の【騎士】たる、わたくしが、伝説……」
「うん! そしたらユルちゃんも、伝説の薬草見つけた伝説の騎士だよ!」
「わたくしが、伝説の騎士……んもう、仕方ありませんわね。ちょっとだけですわよ?」
否定しつつも嬉しそうなユルエールに、シャノが苦笑する。
彼女達はわいわいと地下への階段を降りていく。
曲がりくねった道を進み。
分岐路を右へ、左へ。
ついでに十階ほど階段を降りて、最深部へと到着する。
そこには銀色に輝く、巨大薬草が育っていた。
「「「おおー!」」」
なんか、すごく強そうな薬草っぽい!
ミナがわくわくしながら手を伸ばすと。
銀色の薬草がニョキニョキと成長し、巨大な触手を伸ばしてミナ達に襲いかかってきた。
「なんか変なの出たあああああっ!」
「モンスターですわ! リリィ、早く魔法をっ」
「ふ、ファイ、にゃ、ファイアボール!」
「皆さん大丈夫ですか、おおお、落ち着いて戦いま……ひゃあーっ!?」
*
「それで、薬草に擬態したモンスターを退治して、素材を持ってきた、と……?」
「はい! リリィちゃんから、エクスポーションの材料になるって聞きました! 薬草不足に役立つと思います!」
えへへー、と泥だらけの笑顔で自慢するミナ。
その手にはしっかりと銀色の薬草が握られ、本日のクエストも大成功!
という一報を聞いた初心者の館の受付嬢、ロジーナはそっと溜息をついた。
「話は分かりましたけれど……カミール草は、どうなりました?」
「「「あっ」」」
「クエストは対象指定物のものを持ってこないと、伝説の聖剣を持ってきてもクリアにならないと、何度も、何度もお伝えしましたよね?」
「本当にすいませんでしたーっ!」
勇者見習い、ミナとその一行。
初心者の館を訪れて、およそ三年。
彼女達は、未だにトラブル続きで卒業できない……とても残念な、冒険初心者達であった。
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