第11話

颯爽と国道を走る真っ白のスポーツバイク。そのバイクにまたがる深紅色のライダースーツとフルフェイスに包まれた人間。そのバイクは国道から細い路地へと進路を変えた。さっきまでの速度とは違い、ゆっくりとスローダウンしながら走る。細い路地を抜けると、赤レンガ風の住宅街が現れた。白いバイクに乗った人間は、住宅街の道路脇にバイクを止めた。深紅色のフルフェイスを外すと、長い金髪姿の女性が現れた。


桐谷(きりたに)「撒けたかしら」

そう言いながら、住宅の玄関前に向かう階段を登る。その先にある白色の玄関扉を開けようとした時、桐谷は違和感に気付く。


桐谷「紙が落ちてる。誰か入ってる?」

桐谷はいつも、扉と壁の隙間にグレーのメモ紙を半分に折って挟んでいた。防犯の意味もあるが、桐谷の職業柄というのが主である。今回、その紙が桐谷の足元に落ちていた。一瞬、何か焦げた臭いを感じた桐谷。


桐谷「誰がここを!?」


バゴォオォオオン!!!


桐谷の目の前にあった白色の扉が、爆発音と共に吹き飛んだ。瞬時に手に抱えていたフルフェイスと両腕で顔面をガードした桐谷。赤黒い炎と爆風が玄関口から吐き出て来た。爆風で階段から転げ落ちながら、後ろでなんとか受け身を取る。だが、全身に受けた強い痛みが遅れてくる、桐谷は咳き込みながら仰向けに倒れた。


パチパチパチパチ


軽い拍手をしながらスーツ姿で現れた男。桐谷は上体を何とか起こし、男の姿を確認する。


桜田「見事な爆発でした。格好良いですねー桐谷さん。やはりそう簡単には死にませんね」

桐谷「、、、、誰よ」

桜田「失礼。爆発に興奮してしまって。私は桜田と言う者だ。単刀直入に言おう。運び屋の君が今持っている品物を私に渡せ。渡さなければ爆発以外の手段で奪うまでだが」

桐谷「答えは、ノーよ。私の仕事は終わってないの」

桜田「そうかそうか。そうだよなー、無理な質問だった。じゃあ、君の大切な人からの頼みだったら、どうする?」

桐谷「、、何?」

桜田「あとは任せるよ、井岡(いおか)」


そう言うと、桜田はその場を後にする。桐谷は桜田が呼んだ´´井岡´´と言う言葉を信じられずにいた。すると、桐谷の頭に銃口が突きつけられた。


井岡「悪いな。依頼品を渡してくれ」

その声は、たしかに桐谷が交際している彼の声だった。

桐谷「何で?」

井岡「俺はずっとお前を監視していた。それだけだ」

言葉を失う桐谷。スッと目を瞑り、彼との思い出を瞬時に思い返す。彼に裏切られた今でさえ、怒りを顕にすることはなかった。


桐谷「フッ、、無理よ。これは依頼人の大切な物なの。どうせ誰かに殺されるなら、貴方に銃で撃たれた方がましよ」

井岡「そうか、、残念だよ。別れの時だ美里(みさと)」


井岡は銃の引き金に指を掛ける。優しい笑みに一粒の涙を流す桐谷。


その時、そっと桐谷の頬の涙を指で拭き取る男性が現れた。桐谷の目に映ったのは、青いスーツ姿で丸眼鏡を掛けた青年だった。


天野(あまの)「初めまして天野です。時を止めていますから、今だけはあなたと僕しか動けない。素晴らしい感情ですね、死を目前に笑ったあなたの顔は美しかった」

桐谷「、、えっ。あなたは?」

天野「日本語の名前だと伝わりづらいですよね。僕は天使です、だから基本的に何でも出来ます。ただ、このままだとあなたの命は彼の拳銃で奪われてしまいます。もし、あなたがまだやり残した事があるのであれば助けてあげます」

桐谷「天使、さん。、、フフッ、本当に時が止まってるわ。やり残した事、、あるけど」

天野「では契約を結びましょう。命を助けるだけじゃなく、特別な力も授けますよ」

桐谷「契約?」

天野「まずはあなたの名前を教えて下さい」

桐谷「桐谷、美里」


そして、天野から契約の話を聞いた桐谷。天使との契約を結び、特別な力も与えられた。桐谷は、ピタリと動かなくなった井岡に別れを告げ、天野と共にその場から離れた。天野は壊れていた桐谷の白いバイクも簡単に直すと、何も言うこともなく消えていった。桐谷は白いバイクのエンジンをかけ、細い路地を走り抜ける。

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