第9話

山上と蒔田はボートに乗っていた。雲ひとつ無い空、青い日本海の上に白いボートが浮かぶ。山上と蒔田はウェットスーツにコンパクトサイズの酸素ボンベを装着していた。


山上「今回の依頼品は海の中か」

蒔田「2週間前。日本の大型客船が原因不明の沈没をした。依頼人は、その客船に乗っていたのだが、緊急ボートに乗り移る事が出来て命は助かった。だが、思い出の品である宝石のネックレスを客室に置いていったらしい。」

山上「それが依頼品か」

蒔田「場所は警察の協力者から得ている。俺が先導する、山上は周囲に危険物がないか監視しながらついて来い」


2人はゴーグルを装着し、ボートから海にダイブした。青い海の中に、2人の泡(あぶく)が太陽の光でキラキラと輝く。先に蒔田が深く潜って行く。段々と海の色が濃くなり、太陽の光が届かなくなっていた。山上は蒔田の後方から、海の中にぼんやりと黒いシルエットが浮かんでいるのを確認した。


蒔田は山上の方を向き、指を指して目的の船に着いたと知らせる。そこには、まるで自分が海の小魚になってジンベエザメを間近で見上げる程の大型客船が沈んでいた。外装は綺麗なままだが、所々の窓が割れており、船の中を行き来する魚達がいた。


蒔田は一人分が通れるサイズの窓から船内に入って行く。そして、防水シートに入れた客船の案内図を取り出した。依頼人が泊まっていた部屋はNo.303。案内図に赤い線で縁取りされていた。蒔田が入った所は客船の3階部分。依頼人の部屋は4階、蒔田と山上は上の階に行く為の階段を探す。船内の客室はほとんど手付かずの荷物が残っていた。通路は少し狭く、行く手を阻む衣服等を避けながらようやく階段を見つけた。


蒔田が4階へ繋がる階段を泳いで上がる。案内図によれば階段の近くにNo.303の部屋があるはず。案内図を見ながら依頼人の部屋がある方に目線を移すと、誰かの人影が目的の部屋に入って行くのが見えた。


蒔田「誰だ?ダイバーか?、警察の調査は一昨日までで一旦終了してるはず」

蒔田は心の中で、そう思いながらNo.303の部屋へ向かう。


蒔田と山上よりも先に、No.303の部屋に入った黒いウェットスーツを着た男。その男は、部屋に入るとすぐに腰に付けていた巾着袋からビー玉を6個取り出す。そして男は、ビー玉を蒔田達がいる方向に投げた。


山上は蒔田について行く途中、床にコロコロと転がるビー玉を見つけた。そのビー玉は、山上の調度目の前で止まった。


山上「ビー玉か、子供が船に持ってきたんだろうな。、、ぐっ!?」


すると突然、山上の身体が強い力で床に引き寄せられた。その時、前方にいた蒔田は部屋の中に入ろうとしていた。


山上「何だ!?急に身体が引っ張られた」

山上の目の前に止まるビー玉。するとゆっくりとビー玉が右にコロコロと動き出した。


山上「ビー玉。、、ぅお!」


ドン!

今度は山上の身体がビー玉の転がった右側に引っ張られ、壁に背中を打った。


蒔田はNo.303の部屋に入った瞬間、人影で見た男が窓から外へ出て行くのを見た。その時、後ろからドン!と音が聞こえ、山上の安否を確認した。客室の通路を見ると、山上は何故か天井にうつ伏せになっていた。


蒔田「何やってる?、、まずい!酸素ボンベが!」


蒔田が山上の背負う酸素ボンベから酸素が漏れ出ている事に気付く。すかさず蒔田は腕時計をタップし起動する。腕時計の液晶画面はタップに反応し、画面に´´touch´´と赤字で表示された。


蒔田「山上のボンベは使えない、依頼品の回収もある、時間が必要だぞ」


ランダムに数字が表示される。液晶画面を蒔田はタップした。表示された緑色の数字。その時間は20秒だった。


蒔田「クソッ」


蒔田は先に山上の救出に向かった。時を止めている間、水の抵抗はかなり低く動きが速い蒔田。難なく山上の首根っこを引っ張り、次に依頼人の部屋へ向かう。警察の協力者の情報通り、部屋には机があり、引き出しが付いていた。その引き出しを開けると、中に群青色のケースが入っていた。残り10秒。ケースと山上を片手に持ち、蒔田は割れた窓から外へ出た。蒔田は自分の酸素ボンベから十分な空気を吸い込む。そして、自分のボンベの口を山上に入れた。残り1秒。2人は海上を目指し上昇する。


蒔田「ぶはぁっ!!!」

山上「、、悪い、、変な現象に巻き込まれた」

蒔田「、あぁ。おそらく契約者だろう。助けを待とう。ヘリで救出してくれる手筈になってる」


蒔田と山上が顔を出した所を、上空のヘリから伴場は確認していた。


伴場「おぉ!いたいた、パイロットさん!来ました!下げて下げて!」


ヘリは海上付近まで徐々に高度を下げる。プロペラの風圧が海面を揺らす。そして、蒔田と山上の近くにヘリからロープが垂らされた。先に山上、続いて蒔田がロープに掴まり回収された。


伴場「お疲れさん!捕まれ!」

山上「どうも」

伴場から手を差し伸べられ、ヘリの中に入れてもらった山上。次に蒔田がヘリの中に入る。


蒔田「仁さん、今回もありがとうございます。助かりました」

伴場「でっけえ船だったろ」

山上「仁さん?」

蒔田「山上、こちらが警察の協力者と言っていた人だ」

伴場「初めまして、伴場だ」

山上「山上です」

2人は握手を交わした。

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