第8話

霧島は原付で田中の後ろに乗っていたのだが、細い通路から抜けた途端、右から来た大型トラックに衝突。霧島の身体は宙に飛び、まもなくコンクリートの地面に落ちようとしていた。死を覚悟した瞬間。霧島の耳に誰かの声が聞こえた気がした。


川野「珍しいね。死んでも良いんだ」

霧島は声が気になり目を開けた。すると、すぐ目の前に小学生位の少女がこちらを見て立っていた。霧島は、いつの間に少女がここにいるのかを理解出来なかった。だが、間違いなく段々と霧島と少女の距離は近づく。ぶつかると思い霧島が言葉を発しようとした。その時、少女は微笑みながら左の手のひらを霧島に向けて見せた。


川野「助けてあげる。私は川野。あなたの名前は?」

霧島「、、、、」


川野と名乗る少女は、霧島の胸に左の手のひらを当てて質問した。霧島は少女にぶつかる所か、そのまま宙に浮いた状態で身体が止まっていた。


川野「大丈夫。喋れるよ。でも、早くしないとあの子、足が折れてるみたいだから」

霧島「え!?、あ、本当だ。喋れる、、あの子って、田中!」

川野「あなたからは見えないかな。トラックのタイヤの方にいるから。さ、お名前教えて。契約のお時間なの」

霧島「足が折れてる?、、何だよこれ。、、名前、は、霧島、、契約?」

川野「霧島。そう、契約だよ。一回しか説明しないからちゃんと聞いておいてね。」

霧島「ちょっと待って下さい。いや、理解が追い付かなくて、、とりあえず先に、君は何者?」

川野「え、天使」


・・・

その後、霧島は川野から契約内容を説明された。天使との契約を結ぶ事を了承した霧島。命を助けられた霧島は、川野から与えられた力を理解出来ずにいた。それよりも早く田中を病院に連れていかなければと、頭の中はその事でいっぱいになっていた。川野は説明を終えるとすぐに消えていなくなった。霧島はすぐにトラックのタイヤ脇にうずくまる田中の元に走った。意識はあるものの喋れないほどに苦しんでいた。霧島は救急車を呼び病院へ行った。そのまま霧島は田中に付き添い、病院で一夜を過ごした。


・・・

翌日。病院のベッドに右足をギプスで固定され寝ている田中。その脇で、霧島は田中の布団に寄りかかり寝ていた。先に起きたのは田中だった。診断結果は右足首の骨折。昨夜は痛みで寝付きが悪く、寝れたのはほんの数時間。微かに覚えているのは、霧島が病院に連絡を取っていた事と怪我の具合を心配してなにかと声をかけてくれた事。田中は霧島に感謝していた。そして、田中は自分の枕を持ち、霧島の背中を叩いた。


田中「起きろ!遅刻するぞ!」

霧島「ぁあ?、、ぉおい!大丈夫か?」

田中「大丈夫じゃねえよ!骨折しちまったよ!」

霧島「、、ごめんな」

田中「大したことじゃねえよ。これも良い思い出だろ(笑)」

霧島「笑えねぇ」

田中「でも商店街のアート。中途半端だもんな、あれは完成させたいんだよなー」

霧島「え?、、何でだよ?」

田中「本当はさ、全部薔薇の絵で埋め尽くす予定だったじゃん?、、俺、花の中だったら薔薇が一番好きなんだよな!だからどうしても完成させたくて」

霧島「とりあえず足の骨がくっついてからな」

田中「じゃあ、とりあえず先に俺のギプスに薔薇の絵を皆に描きに来てもらうか」

霧島「わかった」


・・・

霧島は田中の言葉が気になって、薔薇についてスマホで少し調べていた。すると、薔薇の花言葉の中でも、色の種類によって言葉の意味が違う事に興味を持った。そして後日、霧島は田中の要望通り、芸術学部の仲間達を連れて御見舞いに行った。そして、ひとりひとり田中のギプスに薔薇の絵を描いて行く。霧島がそこに描いたのは、友情の花言葉を持つ黄色い薔薇の絵だった。


・・・

霧島は原付事故の一件から路上アートのスタイルを変えた。それは、花言葉にフォーカスしたフラワーアートを描く事だった。路上に描かれる全ての作品に価値があり、人々を喜ばせる何かになればと思い。今日も集える仲間達とアートに取り組む。


そんなある時。霧島が電話ボックスにひとりでフラワーアートを描いていると、くたびれたスーツ姿の男に声をかけられた。


伴場「今晩は。君、霧島速人(きりしま はやと)君だよね?」

霧島「、、ん?、何ですか?」


伴場は胸ポケットから警察手帳を広げて見せる。


霧島「警察が何か?」

伴場「霧島君の力を貸して欲しいんだ。えーと、、これで、どうだ」

そう言って伴場は、とある写真と見取り図を霧島に渡した。霧島は不意に受け取り見てしまう。

霧島「どこです?、、と言うか何でこんなものを渡すんですか?」

伴場「君が契約者だからだ。お前さんは良い、天使から力をもらったんだろ?」

霧島「、、何でその事を」

伴場「ただの親父の頼みだと思って、手伝ってくれないか?」

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