第4話

日下と別れた後、伴場はホテルに泊まり、日下からもらったUSBの情報を確認していた。わかりやすくまとめられたデータファイル。伴場はそのファイルをひとつひとつ丁寧に見て行く。桜田は長官の指示でこの事件をもみ消しにしたに違いないと伴場は確信した。確認作業に追われ夜も遅くなったので、風呂に入らずベッドで休む事にした。


翌朝、伴場はアイロンもかけずによれたワイシャツとスーツを着てホテルを出た。朝6時の道に人はほとんどおらず、伴場は足早に駅を目指した。すると、前方の脇道からひとりの男が現れた。何やら目立つ服装に伴場は怪訝な顔をした。


三浦(みうら)「おはようございます。伴場さん」

いきなり自分の名前を呼ばれ、違和感を感じた伴場。

伴場「どちらさんかな?」

三浦「僕の事なんて興味無いでしょ。もうすぐ死ぬんだから、答える意味も無いですけど」

伴場「桜田の指示か」

三浦「フフッ」


不適な笑みを浮かべた三浦。そして三浦はズボンの左ポケットに手を入れた。


伴場「何をしても構わないが、何処で誰が見てるか分からないぞ」

三浦「それは僕が考える事。、、伴場さん、ゲームをしましょう。僕が持ってるこの1枚のコインで、伴場さんが生きるか死ぬかの運命が決まる」


そう言ってズボンの左ポケットから取り出して見せたのは、片面が白色でもう片面が黒色の1枚のコイン。


伴場「そんな暇ねえんだよ」

三浦「コイントスで白色が出るか、黒色が出るか。選んで当たれば命は助かる。ハズレれば」

伴場「白だ。全てを見破るのは白って決まってんだよ」

三浦「では、契約成立」


ピイィィィン


三浦が親指でコインを弾き宙に飛ばす。小さな金属音が空に鳴る。頂点を終えたコインは回転しながら三浦の手の甲に着地した。三浦は左手で右手の甲を押さえてコインを隠す。


三浦「フフフ」

伴場「どっちだ」

三浦「残念。黒が表です。さようなら伴場さん」

伴場「、、、ん?」


伴場は後ろに、人のいる気配を感じ振り返った。そこには、三浦が拳銃を伴場に構え立っていた。


ブスンッ


鈍い音が聞こえた。その後、伴場は胸が物凄く熱くなるのを感じると同時に膝から崩れ落ちた。完璧に心臓を打ったと確信した2人の三浦は微かな笑みを見せ、その場から去って行く。


伴場「ブッフゥー!、、後ろにも同じ野郎が、、あっーーー!」


伴場は口から血を吹き出し、大の字に倒れた。呼吸が浅くなり、意識が遠退いて行く。段々と視界が白けてきた。伴場の頭の中には、走馬灯が流れる。その中には、部下の日下が元気な笑顔を見せる瞬間が出てきていた。


(伴場の心の声)「悪を滅する為に刑事になったんだ。こんな所で絶対に死んでたまるかよ」


伴場の視界は真っ白になりかけていた。


本間(ほんま)「聞こえてんのかよ」


伴場の胸に一瞬激痛が走った。そしてぼやけた視界に少年の姿が見えた。


本間「やっと目開けた。おっさん、名前は?」

伴場「、、あぁ。子供かー。、、頼む、誰か、大人を呼んで来てくれないか?」

本間「子供じゃねえ!人間に警戒されないからこの体裁なだけだ。それよりおっさん俺に心臓掴まれてるのわかってる?」

伴場「ぁあ?、心、、臓、、ん?」


仰向けに倒れる伴場からは、少年が自分に跨がるように立ち、何かを手に掴んでいるのが見える。伴場の視界が急に良くなった。少年が手に握っていたのは、沢山の血管が繋がる心臓。しかも、その心臓から伸びる血管は、伴場の胸に繋がっていた。信じられない状況に伴場は夢でも見ているのかと感じていた。


本間「おっさん!、名前教えろ」

伴場「ぁあー。伴場だ、名前が何なんだ、、変な夢でも見てんのか俺は」

本間「伴場、人間は死に直面する寸前に走馬灯と呼ばれる物を見るらしいな。その時、伴場が死にたくないと強く願った一念心に引き寄せられて俺が来た」

伴場「だったら、、何なんだ、、ガキがべらべらとよく喋る」

本間「ガキじゃねえ。悪魔だ」

伴場「クッ!、ついてねぇな最後まで。悪魔ならさっさと殺せ」

本間「いや、お前を助けに来た。俺と契約を結べ。断ればお前の心臓を握り潰す。選べ」

伴場「契約?、、何の契約だ」


・・・

本間と名乗る悪魔は、人間を助ける変わりに、ある力を与えると言う。しかし、人間は与えられた力を人助けの為だけに使うことを契約させられる。もし、それ以外の場合に力を使った時は悪魔に命を奪われる。また、与えられた力を使う時、ある一定の制約の中でしか効力を発しない。伴場は本間に自分の心臓を掴まれながら契約内容を聞いた。そして、伴場は悪魔との契約を結んだ。その瞬間、伴場は胸に強い痛みが走り目を瞑った。

・・・

本間「起きろ、伴場」


伴場は本間に強く声を掛けられた。パッと目を開けることが出来た伴場は、すぐに右手で胸を触った。


伴場「、、治ってる。夢じゃなかったのか」

本間「早く立て。これがお前の力になる。ちゃんと使えよ。一回しか説明しないからな」


そう言った本間は、電子タバコに見える物を伴場に投げた。それを両手で受け取った伴場は訝しげにそれを見た。


本間「人間は煙草ってやつが好きだろ。だからそれに似せて作ったんだ。まずは起動しろ、丸いボタンを押せ」


伴場は黒い筒状の小さな電子タバコのスイッチを入れる。すると小さな青いランプが点灯した。


本間「次に、白い煙草部分をゆっくり吸う。いたって簡単な作業だろ。水色の煙が口から出たら能力の反応が起きる」


伴場が煙草に口を当て息を吸い込むと、口から水色の煙が出た。伴場は本間の方を確認した。すると、視界に映る本間以外の景色が早いスピードで動き始めた。


本間「伴場、お前には時を遡る力を与える。今は俺とお前以外は時を遡ってる。左手で遡るスピードを調節出来る。手を開けば早くなり、手を握れば遅くなり、強く握れば一時停止できる。変な使い方をすると酔っぱらうから気を付けろ」

伴場「時を遡る、、何なんだこれは」

本間「伴場、俺はいつでもお前を見てるからな。楽しませてくれよ」


そして、すぐに本間は伴場の目の前から姿を消した。伴場が口から吐いた水色の煙は空に溶けて行く。ふと伴場は腕時計を見た、朝の6時45分だった。


・・・

その後、伴場は直ぐに一課に行き、日下と集めた捜査資料を提出しようと自分のデスクに向かった。だが、そこには伴場のデスクがなくなっていた。するとそこに、桜田が現れた。


桜田「あれ?伴場さんじゃないですかー。驚いたなー、聞いてないんですか?辞令。、、あれだけ警告しておいたのに、無視したからですよ。伴場仁さん」

伴場「辞令?」

桜田「ええ、仲良しこよしの三課にお戻りですよ。もうここにあなたの席はございません。お引き取りください」

伴場「邪魔者は消せ、か。、俺は白黒はっきりしねえのが嫌いなだけだ」

桜田「へー。そうなんですか。ですが警察に限って、それは伴場さんの独り言だったと言うことになりますけどね」

伴場「へいへい。お世話になりました」


伴場は、一旦捜査の仕切り直しが必要だと考え、桜田のいる一課の部屋を出た。その後、悪魔に与えられた力で警察内部の汚職捜査に専念する。それが出来たのも、三課の部長である井出さんに日下が汚職捜査に協力してくれるよう何度もお願いしてくれたおかげでもあった。伴場の捜査は徐々に成果を上げ、汚職を犯した人間に対して警察上層部が処分を下すようになった。今まで、三課の人間を見下していた警察内部の者達からの当たりが弱くなった、と伴場は三課の仲間達から聞きホッとしていた。


・・・


伴場は今日も三課で仕事をしていた。すると、スマホに日下から近くの定食屋で昼ごはんの誘いの連絡が入った。


伴場「珍しいな、お前から飯に誘ってくれるなんて」

日下「そんな事ないですよー。実はひとつ、隠していたことがあって」

伴場「なんだよ、、悪い話かぁ?」

日下「昨日、、子供が産まれたんです!」

伴場「ぉお!、、良かったなー!どっちだ?」

日下「男の子です!」

伴場「そうかー。父ちゃんになったんだな!」

日下「はい。それで、、3ヶ月、育休をもらうことにしたんです。だから、ちょっとの間、仁さんと仕事が出来なくなるんです。その話で今日は」

伴場「いやいや、仕事は気にすんな!それより家族を助けてやんなー。育児はみんなでやるもんだ。にしても急だな日下ー!」

日下「すいません」


日下の報告を受け、伴場はしばらく単独で汚職捜査をする決意を固めた。そう思っていた次の日。三課に他の部署から異動してきたひとりの青年が朝礼で紹介された。


古武(こぶ)「おはようございます!渋谷区第2交番勤務から、捜査第三課に本日付で配属になりました!古武翔(こぶ かける)と申します、よろしくお願い致します!」


三課の全員が拍手で古武を迎え入れる。


井出部長「古武君は、伴場さんの部下としてしばらく学んでもらう。よろしく頼みます」

伴場「早いねー、代打が来るのが」

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