第2話
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タカノ美術館に警察の立ち入り調査が行われた当日の深夜2時。誰もいないはずのタカノ美術館。「ニッポンの名画百選」の展示品通路、黄色い薔薇の絵が描かれているちょうど真上の天井の一部が開けられた。そこから一本のロープが館内の床まで伸びてきた。天井裏には黒い作業着に身を包む山上と蒔田がいた。
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山上と蒔田が天井裏に忍び込む17時間前。ちょうどタカノ美術館に警察が事情聴取に入る頃。山上と蒔田は鑑識員の姿で紛れ込んでいた。そして黄色い薔薇の絵が描かれている場所へ向かっていた。
蒔田「依頼人の祖父は有名な画家だったらしい。今回の出品にあたり絵画の裏側にある細工を施してある。と生前に依頼人だけに内緒に話していたらしい」
山上「それが鍵だと言う証拠は言ってなかったのか?」
蒔田「依頼人は遺品として鍵のかかった箱をもらったときに、生前の祖父の話にピンと来たらしい。この絵だ。」
蒔田と山上はスポットライトに照らされた和服の格好をした女性の絵画を目の前に立っていた。山上は黄色い薔薇の絵の方の鑑識に紛れ、蒔田は絵画周辺の鑑識を始めた。すると、鑑識の集まりを掻き分けるように刑事2人が絵画の前まで進んできた。その時、蒔田の右ポケットに誰かが何かを入れて横を通りすぎていった。蒔田はすぐにポケットの中を確認した。それは館内の細かな設計図だった。
蒔田「山上、情報は手に入った。出るぞ」
山上は黄色い薔薇をじっと見つめた後、蒔田に声を掛けられて館内から外へと出た。美術館の専用駐車場に止めてある黒い車に蒔田と山上は乗り込んだ。そこで山上は蒔田から館内の詳細な地図を渡される。
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黒い作業着を着た山上は、天井裏の壁面に強力なアタッチメントとロープを繋いだ。蒔田からアイコンタクトで降りろと指示を受け山上は両手でロープを握り滑らかに館内に着地する。山上の正面には午前中に確認した絵画と黄色い薔薇の絵があった。山上はペンライトを口に加え、大きな絵画を両手でゆっくり外して床に置いた。
山上「裏に返すぞ」
耳に付けたワイヤレスイヤホンで蒔田に伝える。そして絵画を裏返すと、中心部分に平たいダイヤルが付いていた。その丸いダイヤルには0から9の数字が順に配置されていた。
蒔田「ダイヤルがあるはずだ。数字の上に矢印が付いている部分がスタート地点になる。まずは0を矢印に合わせてくれ。」
山上は矢印を探した。白い三角の矢印が3の上にあることを確認し、指でダイヤルを回し0を矢印の位置に移動した。平たいダイヤルを回すと小刻みに音を鳴らして動いて行く。
蒔田「次に、右回しで0の位置に、左回しで5の位置に動かしてくれ」
山上は蒔田の指示に従い順にダイヤルを回して行く。そして矢印の位置に数字の5を合わせた瞬間、平たいダイヤルの中心部分がカチッと音を立てて円柱の形が飛び出した。
山上「ダイヤルから何か出てきたぞ。ダイヤル回しは終わりか?」
蒔田「ボタンには触るな。もう少しだ、次に右回しで3、左回しで1の位置に動かしてから飛び出たボタンを押す」
山上は慎重にダイヤルを回して行く。そして数字の1を矢印まで動かし、ボタンを押し込んだ。
ガコン。
山上がボタンを押した瞬間鈍い音が鳴った。よく確認すると絵画の額縁が外側に開いていた。
山上「額縁が外れた」
蒔田「最後だ。裏面の板を外せばどこかに鍵があるはずだ」
山上はダイヤルの付いた裏面の板を両手で外し右に置いた。そこに見えたのは絵画の裏面の白い部分だった。山上は目視と手探りで鍵を探す。
蒔田「まだか。必ずあるはずだ。」
山上「見当たらない。裏面にあった板の裏側にもないぞ、どうする?」
桐谷(きりたに)「フフフッ。」
蒔田「誰だ」
瞬時に蒔田と山上は見知らぬ声が聞こえた館内入口方面を見た。だが暗闇の中では姿がぼんやりとしか認識できない。
桐谷「一足遅かったみたいね。これは私が頂くわ」
女性と思われる声が伝えたのは、山上達が依頼されていた鍵が入っているであろう物を先取りされたと言う事実だった。
山上「何の目的で、、」
蒔田「クソッ」
そう言って蒔田は山上が使ったロープを掴み館内の地上まで素早く降り立った。そして左腕に付けた腕時計を見た。その腕時計の液晶画面には´´call´´と赤い文字が明滅表示していた。
蒔田「タイム」
蒔田の声に腕時計が反応し、液晶画面が変わり1ケタ~2ケタの赤い数字をランダムに表示し始めた。
蒔田「10秒で良い」
山上「おい何言ってる?」
蒔田は握った右手のお尻の部分を腕時計の液晶画面の上にタッチした。するとランダムに表示された数字が緑色になって止まった。
蒔田「30秒、充分だ」
蒔田は急いで奪われた鍵が入った物を探しに動いた。すると暗闇の中に全身黒いレザースーツを着た金髪女性を見つけた。蒔田はその女性が右手に持つ小さな細長い箱を奪い取り山上の元へ戻る。そして、あらかじめロープと共に繋いでおいたワイヤーリールを山上の方から始動させて開いている屋上に入るように山上を直立不動にさせてからワイヤーリールを回転させた。山上がワイヤーに引っ張られ天井の穴にうまく入っていったのを確認し、蒔田も自身のワイヤーリールを回転させた。天井穴に入った蒔田は動かない山上をなんとか仰向けで横にした。蒔田は腕時計を確認した。30秒の数字がカウントダウンを始めてから今までの経過で残り1秒となり、そして0秒を迎えた。
山上「、、ここは。天井裏、蒔田!、何をした」
蒔田「緊急時の対応をしただけだ。あと、依頼人の鍵はちゃんと確保できた。撤収しよう。話は後だ」
山上達よりも先に鍵を奪ったはずの桐谷。気付くとさっきまで見えていた山上達がいなくなっていた。さらに手に握っていた小さな細長い箱も消えている。
桐谷「、、あれぇ。契約者だったかしら」
そう言い残し、桐谷は館内の暗闇の方へ逃げて行く。
・・・
鍵を手に入れた翌日。山上と蒔田は依頼人に鍵を渡す為、街が一望できる展望台に来ていた。カジュアルなスーツ姿の蒔田と山上。山上は昨日の夜の出来事を整理出来ずにいた。先を歩く蒔田が、展望台のガラス越しに外を眺める白いワンピースを着た女性に話しかけていた。
蒔田「遅くなりました」
中野(なかの)「とんでもないです。あの、本当に見つかったんですか?」
蒔田「こちらが。私どものルールで、中身は確認しておりませんが。中野様の求めている物かと」
中野「これが、、。本当に見つかるなんて、ご協力ありがとうございます!、ご依頼料は今日中に振り込ませて頂きます。本当にありがとうございます」
蒔田「とんでもないです。では私どもはこれで」
そう言い残し、蒔田と山上は直ぐに依頼人と別れて展望台を後にした。そして2人は車に戻り、蒔田はエンジンをかけた。車を走らせると助手席にいる山上は蒔田に昨日の件について聞いた。
山上「蒔田。昨日の夜、俺がいつの間にか天井裏に戻っていた件。何があったんだ?」
蒔田「詳しくは話さない。俺は、、ある契約を結び、時を止める力を与えられた」
山上「契約、何でそんな力が」
蒔田「悪魔だ。この世界には悪魔がいる」
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