逆境ミッション
アラガキ アラタ
第1話
♪♪♪~♪♪♪~♪♪♪。
大きなダブルベッドに寝ていた山上(やまがみ)は、アラーム音を発するスマホを手に取りアラームを停止させた。時刻は午前9時。外から注ぐ優しい陽の光が山上のいる部屋を明るくしてゆく。
カタン。
ドアポストに何かが入った音がした。山上は薄い掛け布団を剥ぎ、寝室を出て直線上にある玄関へ向かった。山上はドアポストを開け何が来たのかを確認した。入っていたのは黒い封筒に入った白い手紙だった。手紙には待ち合わせ日時と場所だけが記されていた。その待ち合わせの日は今日を指定していた。
昼の12時。山上は手紙に指定された時間通りに、お店の引戸を開け暖簾をくぐった。そこには木目調のカウンター席と畳の座敷が4つ程用意された店内。1人の板前が握る寿司を1人でゆっくりと味わう黒いスーツ姿の蒔田(まきた)がカウンター席に座っていた。山上は引戸を閉めて、寿司を食べる蒔田の隣の席に座った。
板前「いらっしゃい」
カウンター席に座った瞬間、板前が山上に軽く視線を向けた。そしてネタを握る手元に目を移す。
山上「中とろ」
板前「はい」
山上は板前に注文をした後、右側に座る蒔田と一度目線を合わせ板前の方を向いた。
蒔田「依頼人は死んだ祖父から遺品としてもらった箱の鍵を探している。その鍵はタカノ美術館の絵画に隠されている」
山上「どうやって入る?」
蒔田「警察内部に協力者がいる、明日の朝9時30分に美術館に入る」
山上「警察か、、必要なのか」
蒔田「信頼できる」
蒔田は湯のみに入ったお茶を一口飲み、会計を済ませ店を出ていった。
板前「中とろ、醤油を軽く塗ってあるからそのまま召し上がって」
山上はそう言われ目の前に出された中とろをひとつ手に取り口に運んだ。
・・・・
翌日。朝9時30分を迎えようとしていたタカノ美術館に警察と鑑識が立ち入り調査を行っていた。館内では館長と思われる40代の派手な格好をした女性が何やら早口で警察に事情を話している。
伴場(ばんば)「ああいう人間程、緊急の時には素が出ちゃうんだろうなぁ」
だらけたグレーのスーツ、よれた襟のワイシャツに身を包む伴場が煙草の煙を燻らせながらぼやいた。
古武(こたけ)「ダメですよ仁(じん)さん!館内禁煙なんですから!」
煙草を咥える伴場の後ろから走って隣まで来たのは伴場の部下の古武。20代程の若い青年。
伴場「ん?、、あー、、へいへい」
古武「前から気になってたんスけど、仁さんの煙草の煙の色って水色っぽくないですか?」
伴場「あ~、これはな、新しい電子タバコみたいなやつでな、それよりお前今日は何で美術館なんだよ」
古武「それを調べるために僕達が来たんですから、これからですよー。多分あれですよ、最近噂になってる例のフラワーアート。あんなの只の落書きでしょうけど。SNSにあちこちで描かれた画像が沢山上がって賛否を呼んだのが原因でしょうけど」
伴場「そう言う何でもないヤツが一番おっかねぇんだけどな、一応見てみるか」
そんな会話をする伴場と古武は、派手な格好をした女性を横目に通りすぎた。現在タカノ美術館では「ニッポンの名画百選」と看板を掲げており、暗い照明の中にはスポットライトに当たる絵画が複数飾られている。伴場と古武は鑑識がやたらと集まって何かを収集している一帯を見つけた。
古武「ちょっとすいません、僕達にも見させて下さい、、はい、通りまーす」
伴場「にしても天井低いなぁ」
伴場と古武はスポットライトに照らされた和服の女性の絵画には目もくれず、その絵画の右下の暗い壁に描かれているアートに近づいた。
古武「綺麗っすねー。只の黒い壁に良く描いたもんですよね」
伴場は古武よりも前に顔を出して壁の絵を見た。
伴場「薔薇かー」
古武「薔薇ですね」
伴場「黄色い薔薇なんて見たことねえけどな、、」
古武「何か意味があるんでしょうかね?」
伴場と古武が見つめる黄色い薔薇の絵。絵の縦横の長さは15センチ程のサイズで描かれていた。光沢感のある薔薇の葉肉が黒い壁に嫌に映えている。館長への事情聴取と鑑識の作業が一段落ついた今日は、現場から撤収し器物損壊の容疑で犯人の捜査が続けられた。
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