第14話 仕事は山のように

 台所からかすかに音が聞こえていたのがいつの間にか消えていた。

 リビングにも行かず、俺は管理人室でひとり、パソコンに向き合って作業していたのだが、手を止めて最初に気づいたのがそれだ。

 手元にはたくさんのポーズが走り書きされた紙と鉛筆。

 パソコンからはヘッドホンが繋がっており、そのヘッドホンは今、俺の首にかけられていた。

 ふと時計を見れば、管理人室にこもってから早くも1時間が経過していた。


「とりあえず1曲完了、っと。……リビング行こっと」


 公式のMVをもとに1曲完成させ、そのデータを保存する。

 あとはこれを踊らせてみて、細かい配置や、人数分け、時には振り付けの改良を施していく。

 疲れを感じ、リラックスしたいのもあり、リビングへ。


 リビングにいくと、京香と遥乃の姿はなく、さくら、陽菜、そしてお母様の3人で話し込んでいた。

 部屋に入っていくと、さくらが真っ先に気付き。


「皆斗さん、ここ座ってください」

「はいよ。……で、何の話してたのかな?」

「さくらさんと管理人さんのファーストコンタクトの話を聞いていたんですよ。三枚橋の元教師なんですって?」

「そうなんですよ。ここの管理人になるっていうんで辞めたんですけどね」

「そうですか。……うちの陽菜も教えてほしかったんですけどね……」

「そうなんですか?」

「ええ。先生実は意外と有名なんですよ?男性で若いのに、授業と優しさで生徒の心を鷲掴みにしているって」

「そんなことないですよ。部活では厳しいですし、決して生徒にいつも優しいわけではないですから」

「それも知っていますよ。先生が怒るときに理不尽なことがない、とか、クラスメイトの人間関係に関わらず正しくない行為をした人がちゃんと注意されるって。だからパシリとかするような生徒が生まれないどころか、更生させちゃったってね」

「そうですか……。まあこの寮にいる以上、寮生の子たちが悩んでいたらそこは面倒見ますし、勉強も教えますけどね」


 その一言に、ぱあぁと笑顔を咲かせるさくら。


「じゃあ明日から教えて下さい!」

「急に言われても出来ないけど。しかも明後日には指導日がくるから無理。3日後だったら多分大丈夫だけど」

「じゃあ3日後で!」

「どこからやるの?」

「えっと、世界史だけだったら去年の続きからです」

「世界史だったら、ってどういうこと?」

「えっとですね……、私、文系なんですけど……」

「まさか英語が駄目?」

「いえ、英語は余裕です」

「じゃあ何?」

「現代文です」

「ほお、現代文ねー、……って現代文!?」


 文系で現代文で点が取れないはかなりやばい。

 恥ずかしそうに頬を掻くさくら。


「ちょっと、去年の学年末の現文持ってきて」

「分かりました。ちょっと待っててくださいね」


 そう言って、自室へ戻るさくら。


「ふふ、これなら本当に安心ね」

「そう言っていただけてありがたいです。……陽菜ちゃんも、なにかあったら遠慮なく言っていいからね?」

「本当ですか?」

「ああ。むしろ頼られないほうが傷つく」


 その返答にクスッと微笑を漏らす母娘。

 それを見ていて、大事なことを思い出したので、慌てて伝える。


「そういえば、ジャムお裾分けするって言ってましたね、今瓶に詰めて持ってきますね」

「ああ、わざわざありがとうございます。急がなくて大丈夫ですよ、今日は駅近くにホテル取ってあるので」

「あ、そうでしたか。……言ってくださればお泊めできましたけど……」

「え、そうなの?」

「じつはまだお部屋余っておりまして。ですがさすがにホテル予約されているんでしたら――」

「泊めてもらえるかしら?」

「かしこまりました。ただ、私は男ですので、廊下の清掃時及び緊急時を除き、原則2階へは行かないようにしておりますので……さくら、陽菜ちゃんの隣にご案内して」

「はーい。……今ですか?」

「後ででいいよ。……ジャムはギリギリまで冷蔵庫に入れておきますね」

「お願いします」


 今日限定ではあるが、陽菜ちゃんのお母様も泊まられる事になった。



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お知らせ


カクヨムコン等ありますため、この話を持ちまして、当面の間この作品の更新を停止いたします。

再開は来年度、2月までには再開したいと思います。

大変申し訳ありませんが、しばらくお待ち下さい。

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