第9話 管理人生活、始動 その6

 2番目に帰ってきた入居者の遥乃の要望に答えて、ナイト・オブ・ナイツを弾ききった俺に対して放たれた言葉はというと。


「え?え?本当に弾けた、だと……?」

「弾けますけど?だから弾いたんでしょうが」

「いやだって本当に弾けるなんて思ってないもん!」


 その口調が、素に戻っていると思われ。


「遥乃、口調が素に戻ってるぞ」

「ふぇっ?うそ、私素の自分出しちゃってる?」

「いままさに出てるじゃん」

「あっ」


 今まさに気づいた、という感じの遥乃。

 そのままガクッとうなだれると。


「なんで学校でも仮面外したこと無いのに、ここじゃこんな簡単に剥がされるの?」

「愚痴をこぼすのは勝手だけど、元教師相手に仮面なんて通用しないからね?」

「えっ、元教師なの?」

「つい3月まで三枚橋にいたけど」


 なんなら遥乃のクラスの授業を持ったこともある。

 本人はすっかり忘れているようだが。

 かくいう俺も忘れていたわけであるが。

 当時の学年から推測すると、現在大学2年生。

 おそらく1番自由な時期であろうか。


「あれ、ほんとに三枚橋にいたっけ?」

「え、疑われてるの?」

「だって私1年ちょい前までいたけど、見たこと無いよ?」

「嘘つけ。遥乃のいたクラスなら俺受け持ったことあるぞ」

「はい?私の?え、ちょっとまって、教科と学年は?」

「遥乃が高3のとき。教科は世界史だけど」

「えっと、世界史だから……、ひょっとして北野先生?」

「あたり。というか自己紹介のときに気付きなさいよ」

「そういうあなたは?」

「……」


 心当たりが非常にあるので無言でそっぽを向いてみる。


「ほらぁ!やっぱり覚えてなかったんじゃん!」

「でも遥乃より先に思い出したし」

「でもじゃないでしょ!……もう、なんか先生のイメージが崩壊していくんだけど」

「一体どんなイメージだよ」

「いっつも生徒に対して丁寧で、生徒思いの完璧超人な優しい先生」

「そんな教師がいてたまるか。だいたい今でも優しいじゃないか」

「何が?」

「先生と生徒でこんな感じに言い合いできるとか、普通ありえないからな」

「だからって自分で優しいって言っちゃだめじゃん、先生……」

「あ、さっきさくらにも言ったんだけど、先生って呼び方やめて。今は先生じゃないから」

「じゃあ北野さん」

「はいよ。こっちは呼び方変えなくていいね?」

「うん。じゃあよろしくね、北野さん」

「はい、よろしく。……ああ、夕飯になったら呼ぶから。あとピアノは弾きたいときに弾いていいよ。ただし部屋のドアを閉めること」



 こうして2人目の顔合わせも順調に終了した。

 これで油断した俺は、次の生徒のときに痛い目を見ることになる。



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 そろそろキャッチコピーの真意を世に放つとき……


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