第3話 北野先生最後の授業
あれから2ヶ月が過ぎ、今日は3月10日。
最後の授業の日である。
テストの返却と解説が終われば残る時間はわずかに10分。
「さて、皆知ってるかもしれないんだけれども、今日の授業を最後に君たちと会うことはなくなります」
その宣言に全員が驚く教室。
「先生、辞めちゃうんですか?」
「うん。家の仕事を受け継ぐことになってね。男だけど女子寮の管理人をしなくちゃいけなくなったんだ」
その言葉にクラス中がなぜか悲しみに包まれる。
わけがわからんが、どうやらこの子達にとって良い授業をできたようだ、と理解し続ける。
「まあとはいえこの学校の提携寮らしいんだけどね。それにちょくちょく来るつもりだよ、部活があるからね」
「じゃあ先生はダンス部外部顧問っていう形になるんですか?」
「そういうことだな。毎週土曜日だけだけど、寮はうちの祖母が一日くらいなら良いって言ってくれたから。それ以外は離れられないから来れないけど」
その返答に、今度は歓喜に包まれる教室。
どうやら俺が来ることが良いことらしい。
それとも表面だけそうしていて、内心では真逆のことを思っているのかもしれないが。
「それじゃ最後にひとつだけ。この1年、君たちと過ごす事ができてよかったです。授業もしっかり聞いてくれていたし、テストでも常に平均点が他より高く、最低点も高く、皆出来が良く、教えがいがありました。来年から君たちの授業を受け持つ先生が誰になるかは分かりませんが、これからも頑張って、志望校に合格して、自分の行きたい道を進んでください。全員に会えるわけではないけれど、ずっと応援しています。……それじゃ級長さん、泣いてるところ悪いけど、終わりの挨拶お願い」
しかし、すすり泣くこのクラスの級長はなぜか聞こえてないらしく、何も動きがない。
「あの〜、そんなに泣くことかな?たかが先生1人が辞めるってだけの話だよ?しかも来年から別にいなくなるってわけでもないんだよ?」
と、聞いてみるも返事はなし。
あいかわらず教室には多くの生徒のすすり泣く声が小さく響き、泣いていない生徒も全員が目に涙をためているという状況。
「星川さん」
「はい」
「そろそろ終わりの挨拶お願い」
「分かりました。……起立」
ガタガタっと音を立て立ち上がる生徒たち。
「気をつけ。今まで2年間、ありがとうございました!」
「「ありがとうございました!」」
「こちらこそ、ありがとうございました」
「着席」
こうして新卒教員生活最後の授業が幕を閉じた。
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