第2話 母の入院と引き継ぎ
「北野さん、こんにちは。お母様の主治医の
「北野皆斗です。母はどういった状況でしょうか?」
「左大腿部骨折、右腕複雑骨折、それから頸椎を若干痛めています。信号無視の車に轢かれたようです。ある程度は戻りますが、軽度の運動障害が残ることは覚悟しておいてください」
「入院はいつ頃まで続く見込みですか?」
「そうですね、骨がある程度治らないことには退院できませんし、リハビリもありますから2〜3ヶ月はかかりますね」
「そうですか」
「面会はどうなさいますか?今でしたら可能ですが」
「ではお願いします」
ベッドの上の母は包帯だらけだった。
「お母さん、大丈夫?」
「ああ、皆斗か。来てくれたんだ。悪いね」
「校長に話して早退させてもらった。結構回復まで時間がかかるみたいだって。あと運動障害が残る可能性が高いって」
「そう。……じゃあ寮は閉じるしか無いかな。仕方ないか」
もとよりその話が出るだろうとは予測していた俺は、すぐさま言葉を返す。
「寮なら俺が4月から継ぐよ。それまではお婆ちゃんがやってくれるって」
「そう、じゃあお願いするね。大変だとは思うけど頑張ってちょうだい」
あっさりと管理人を引き継ぐことが決まり、少々困惑しつつ俺は一旦学校へ戻った。
校長室の前に立つ。
コンコン。
「どうぞー」
ガラリとドアを開け、校長先生の前に立つ。
「失礼します、北野です」
「おお、北野くんか。まあそこに座り給え」
「はい、分かりました」
校長室のソファは柔らかい。
「北野くん、なにかあったのかい?」
「来年もここで継続して働くことになっていたと思うのですけれど」
「ああそうだったな。君は優秀だから3年後には担任を持ってもらいたいと思っているんだ」
「母の仕事を継ぎますので、今年の3月を持って辞職させていただきたいと思います」
「お母様かい?なんの仕事をなさっているんだ?」
「寮の管理人です。ペンションKAMISHIROっていう寮の」
「ん、もしかして君のお母様の名前は北野沙也香さんかね?」
「ええ、そうですね。しかしなぜそれを?」
うちの校長がなぜ母の名前を知っているんだろうか。
その疑問は次の瞬間解けた。
「じゃあ来年からも今とは違う形だがよろしくな」
「はい?教員は一旦辞めると言ったじゃないですか」
「君が引き継ぐ寮はね、うちの生徒が入る寮の一つなんだよ。しかも部屋が少なく数名しか入れない超人気の、ね」
それは知らなかった。
「ということは来年からも一応お世話になるんですね」
「そのとおりだな。君のような優秀な教師を失うのは非常に辛いが、まあ仕方あるまい。せめてコーチとしてでいいからいつか戻ってきてくれ」
「戻れれば、ですけどね。そう簡単には時間が取れませんし」
「ああ。ともかく、今後ともよろしく」
「よろしくお願いします」
こうして俺は3月いっぱいで教員をやめ、寮の管理人になることが決定した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます