第56話
可愛いものに目がない莉乃。
そんな莉乃は、初手でいろいろ買っていた。
嬉しそうな表情はとっても魅力的ではあるのだが、まだ始まったばかりでこんなに荷物を抱えてしまうと、今後に支障か出てしまうのは自明の理。
仕方がないので、ひとまずコインロッカーを探す。
ショッピングモールにはコインロッカーが当たり前のようにあり、それはここ越谷レイクタウンも例外ではない。
割と出入口に近いところにコインロッカーを見つけ、ひとまずそこへ預ける。
全て入れ、支払いを済ませてロックをかける。
「一気に手軽になったね?」
「というかいくら小さめのロッカーだとしてもパンパンになるくらい買ったんだな……。電車で持って帰れるのか?」
「うっ……」
痛いところを突かれた、とばかりに言葉を詰まらせる莉乃。
その様子を見る限り、どうやら莉乃は電車で変えるということを忘れていたらしい。
もっとも、今までほぼ無理矢理押さえつけていた可愛いものへの物欲を解き放てば、そうなるのも自明の理である気はするが。
「ご、ごめん……」
しゅん、とうつむいてしまう莉乃。
その可愛らしい様子にキュンとしてしまう俺。
何も言わない俺に対し、恐る恐る顔を上げた莉乃と目が合う。
「……可愛い」
「はぅっ!?」
可愛さのあまり、口元に手を当てた状態で顔が火照る。
それを見た莉乃も顔を真っ赤にしてしまい、俺たちの間には甘酸っぱい空気がこれでもかと言うくらいに流れ出す。
そして自然と唇が近づき、触れる寸前で公共の場であることに気づき、一瞬で顔が離れる。
「こっ、これ以上は家で!」
「あ、ああ。ここですることじゃないな、うん…」
そんな俺たちは気づかなかった。
一部始終を目撃していた女性集団に、「リア充爆発しやがれ」などと言われていたことに。
何やらピンク色な雰囲気になってしまったりもしたが、ひとまず荷物を預け終わる。
再びkazeの中を進んでいく。
少し行くと、かなり大きめのゲーセンがある。
一瞬俺たちの足はそちらに向きかけたが、もし行ってしまえば数時間は出てこない確信があった。
だから、一度うなずきあったうえで離れる。
更に少し行ったところで、今度は女性ものの服の店があった。
当たり前だが、可愛い系の服もたくさん置いてある。
そちらを見ている莉乃、多分行きたいんだろうな、などと思ってると、いきなりこちらを振り向く。
「律希、行っても――」
「行きたいんでしょ?行こうよ」
「やったぁ!……うちを律希の色に染め上げて、ね?」
すっと耳元に口を寄せ囁かれたそれに、俺の顔には血が集まってくる感覚がするのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます