第26話 殺意マシマシ登校芸

 復帰初日。

 俺は教室に入るなり、殺意と好奇心を全身に浴びた。

 その元凶はというと。


「んふふ~、律希と登校だ~」


 何食わぬ顔でベタベタとくっついてきて離れない。

 そのせいで男子から殺意を、女子から好奇心を向けられているというのに、何も気づかないかのようにふるまう楓。


「おい、さすがに離れてくれ。この年で死にたくはない」

「最近まで死にそうになってた人が何言ってるの?」

「楓のために死ねるなら本望だ」


 俺の返しにかあぁぁと顔を真っ赤にする楓。

 そして歓声を挙げて大盛り上がりの女子たち。

 殺意マシマシの男たち。


「なぁんで復帰した初日から殺意向けられなきゃいけないんだよ!」

「大丈夫だよ、私が一緒にいてあげるから」

「それやったら余計に殺意が増すやつ!」


 そこの男子。

 カッターナイフやらはさみやら包丁やら物騒なものを出すんじゃ……待てコラ、誰だ学校に包丁持ってきてるやつ。

 俺が直々に暗殺してやるから顔をきちんと見せたまえ。


 命の危機しか感じない。

 包丁持ってるやつ先に始末しても多分正当防衛になるから大丈夫。


 という考えは置いておいて。


「ねぇねぇ、楓ちゃん、ひょっとしてだけどだいぶ前から知ってたり?」

「その通りだよ?」

「楓なら幼馴染だぞ?」

「うらやましい……、私も相原くんみたいな幼馴染とか彼氏ほしいな~」

「あげないからね?」

「奪わないよ。朝からいいもん見せられてるし」

「そう……、あんまり信用できないけど」

「それに、楓ちゃんたちの様子見てたらそんな気は起きないよ。すでに2人の間に分け入る隙も無いもの」


 真面目な雰囲気で言われてしまえば、もうそこに反論の余地はない。

 そして周りの女子たちもそれに賛同を示し、少なくとも”俺”が取られる心配はなくなった。


 しかし、一方の男たちはというと。


「おい、だれかあいつを殺せ。俺らの川俣さんに手を出す奴は処刑だ」

「しかも絶対あいつ、川俣さんとあんなことやこんなことをしてるだろ。許すまじ」

「俺たちだってあの柔らかそうな○○に包まれてあんなことやこんなことをしたいんだよ!」

「おい、そこの男子!うちの彼女に何の目線向けてんだコラ、ぶっ殺すぞ」

「なんだと?後から出てきたやつが何言ってやがる!」


 男子と口論になりかけたところで、絶対零度の楓が爆弾をぶち込む。


「ふーん、私たちのことそういう目で見てたんだ。……この変態のドスケベ野郎が。私はお前らのものじゃない、律希のものだ」

「そうよ、何なのあんたたち。女子に向けて、ましてや彼氏持ちに向かってそういうキモい目線向けないでくれる?ていうか死ね」


 一瞬にしてクラス中の女子から非難され、一気に地獄に落とされる男子たち。


 このわずか数分に起こった数々の出来事を把握しきれず、困惑する俺と、何も考えずにべったりと頭の先から足の先までくっついて甘えてくる楓。

 そんな俺たちを微笑みながら見ていた女子のひとりが言った。


「大丈夫。あなたたち2人は、私たち女子が総出で守るわ」




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 12月31日は年末年始のためお休みします。

 次回は1月4日公開予定です。


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