第20話 学校復帰(またの名を地獄突入) その1

 登校。

 それは本来、学校に向かって公共交通機関を乗り継ぎ、ひたすら歩くだけのことである。

 断じて、腕を両脇から挟まれたり(どことは言わないが、大変魅惑な2つの小山で)、後ろや正面から抱きつかれたり、通行人の方たちから好奇心の視線を浴びたり、同級生らしき生徒から殺意の目を向けられたりするところではない。

 というかそもそも、こんなイチャイチャするところではない。


 しかし、どんなに現実逃避しようが、幽体離脱しようが、事実は事実なのである。

 数年前、まだ俺が元気に通っていた頃は1人で登校していたこともよくあったが、今は全く違う。

 左に楓、右にしずく。

 後ろから莉乃。

 それぞれが抱きついてきたりお弁当を渡してきたりするのだから、周りの視線はすごい。


 そもそもお弁当1つとっても、大変な騒動があったのだ。


 それは時を遡ること約15時間。

 いよいよ翌日から登校することが決まり、仕度をしていた中で俺がポロッとこぼした一言が原因だった。


「あ、明日からの昼飯どうしよ。確か弁当だったような。……ま、いっか、明日は学食で」

「学食?」

「あれ、なかったっけ?」

「いや、私達がいた頃はまだあったけど……。最近なくなったって話を聞いたのよ」

「しずくさん、それ合ってます。今年からなくなりました」


 まずい、このままだと明日の昼飯が抜きになってしまう。

 まあ別に作れないこともないし、今から食材とか買いに行けばいいだけの話なのだが。

 ただし、弁当作るとなると朝が早い。

 必然的に夜も早くなるのだが、病み上がりの状態では起きるのが多分難しい。

 現状、今までよりも結構疲れやすいのだ。

 そりゃ昏睡していたんだから、ある意味当たり前の話ではあるのだが。

 それでも学食あるから大丈夫だと思っていたが、肝心の学食がなくなってしまった。

 ここで俺が取れる手段は3つ。


1,朝コンビニかどっかで買う

2,3人の誰かか、親に作ってもらう

3,断食


 これである。


 一番現実的なのは1だろう。

 さすがにお弁当作って、とお願いできるほど肝は座ってない。

 幸いお小遣いは残ってるし、最悪バイトすればいいだけだろう、という俺の思考を読み取ったのかどうかは定かではないが。


「律希、もし良いんだったら私、お弁当作ってこようか?」


 楓のベストタイミングでの申し出に、思わず首をブンブンと縦に振ってしまう俺。

 しかし、その申し出を快く思わない人がいた。

 言わずもがな、しずくと莉乃である。


「ちょっと!楓、抜け駆けは禁止って言ったでしょ!」

「楓、そこまでして私を怒らせたいのか?」

「2人揃ってなんなんですか!いちゃもんつけて何したいんです?」

「いちゃもんだと?君のその、律希の胃を掴もうという魂胆はバレバレだが?」

「チッ。上手くいけるかと思ったのに」

「フン。伊達に生徒会長やってたわけじゃない。生徒会長たるもの、こうやって人の考えることが分からなければならないからな」

「さいですか。……じゃあこうしません?3人で毎日交代してお弁当作るんですよ。ちょうど週6日ありますし、1週間で1人あたり2日ずつ作るってことでどうですか?」

「ん〜、まあそれでもいっか。ただし、担当日以外は自分以外の分は絶対に作ってこないこと!」

「そんなの分かってるぞ、しずく」

「そこの楓がやりそうだから言ったのよ」

「またそうやって人のこと疑うんですから。で、いつ誰が作ります?」

「3人の回転順を作って回せば良いんじゃない?」

「確かにそうですね」


 そこから話はトントン拍子に進んでいき。

 結局、俺は当分の間、彼女たちがお昼を作ってくれることになったのだ。



 ときを戻そう。


 で、結局こうしてお弁当渡しながらイチャイチャしようとしたしずくに感化され、結局4人でイチャイチャしてるのだった。

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